[インタビュー]米NGO=グローバル・エクスチェンジ

反戦運動は、第2ステージ=非暴力
直接行動へと移行するだろう!

2003年 2月15日
通巻 1135号

 ベトナム反戦運動を越える勢いを持ち始めたアメリカの反戦運動。その盛り上がりの秘密は何なのか?また、今後どのような展開を遂げるのか?サンフランシスコで、グローバル・エクスチェンジの活動家=クリス・ミッチェルさん(24才)にインタビューを行った。
 グローバルエクスチェンジは、フェアー・トレードやオルタナティブ・ツアーなどを通して、第3世界との連帯運動を行ってきた。
 「1.18全米デモは、新たな反戦運動の出発点となり、それは今後、米軍や議会への非暴力直接行動として展開される」とクリスさんは語る。  (編集部)

エコカー・パレードで「石油のための戦争」にNo!


 サンブランシスコのデモには、あらゆる階層・グループから10万から12万人ほどが集まりました。特に環境系のグループが多数参加していました。
 1月18日は、歴史に残る日となるでしょう。小さな子供から100歳を超える老人までデモに参加し、あらゆる肌の色や性別や、階層や職業を超えて「戦争反対」の一点で一致して、皆が一同に会したのです。
 そして、イラク攻撃には何らの正当性も必要性もなく、戦争に反対することこそが道徳的であり、これこそが祖国=アメリカを救う道とだと確信しました。歴史的な日だと言ったのは単にその数の多さだけではありません。若者がクリエイティブな活動を行い、様々な表現手段を持って、この活動に参加したからでもあります。
 注目を集めたのが、7百人の環境団体活動家が75台のエコロジー・カー・パレードです。これは、イラク攻撃の目的が石油の獲得であり、こうしたエコロジー・カーでパレードすることで、エネルギー節約型社会への移行を呼びかけ、また、ブッシュのイラク攻撃の本当の目的を暴露しようとするものです。とても大きなデモでしたが、彼らは全米各地からこの日のために集まってきました。
 若者たちは、戦争がいかに環境を破壊し、社会福祉制度を破壊し、教育制度を破壊するかを訴えました。そして、アメリカの行くべき方向を決めるのはブッシュではなく我々自身なのだということを確信したのです。あの大きなデモは、戦争に反対する同志がこんなにもたくさんいることを実感させ、政治家たちにも影響を与えました。
 2月15日にも全米集会が予定されていますが、この集会は確実に18日のデモを上回るでしょう。アメリカは、我々の手の中にあり、団結した人民こそがその行く末を決めるのです。
 女性グループが、環境保護団体が、あらゆるグループが今、イラク攻撃を止めるために集会を組織し講演会に人を集め、あらゆる方法を駆使して、その広がりと団結を強めています。今はとてもエキサイティングな時代です。お互いに学び会い、団結を強め、運動の広がりを創り出しています。
 これまでデモや活動に参加していなかった新しい人がどんどん増えています。私が受付で来る人に尋ねたところほとんどの人が始めてだと言っていましたし、新聞やテレビのインタビューでも「みんな初めてだ」と答えていました。
 ブッシュの与党である共和党支持者も反戦運動に参加し始め、また共和党支持の経済界のリーダーがウォールストリート誌に戦争反対の意見広告を出したりしていることは、注目すべきことです。
 今や「戦争反対」が世論の主流になりつつあるのではないでしょうか。今日の新聞では、ブッシュ政権も、このような戦争反対の世論に押されて、攻撃について内々に再考し始めたと伝えています。


共和党・財界からもイラク攻撃慎重論が


 このように世論の流れが変わったのには、3つの理由が考えられます。
 まず、イラク攻撃には正当な理由がないということです。ブッシュはイラク攻撃の理由を説明できていません。2つめは、戦争には多額の金がかかるということです。みんな戦争よりも教育や福祉や失業対策にお金を使うべきだと考えています。アメリカ経済はここ10年で最悪の状態になっており、ブッシュが有効な経済対策をうち出せないままに経済が落ち込んでおり、今戦争に金を使うことには疑問を持っています。3つめには、デモに対するアレルギーがなくなっていることもあります。普通の人がどんどん反戦活動に参加しているために、誰でも気軽に活動に参加する雰囲気ができあがりつつあります。これらの理由で普通の人たちが新たに参加してきたのだと思います。


主戦論から変わりつつあるマスコミの論調


 メディアにもよりますが、以前に比べて、徐々に良くなりつつあります。サンノゼ新聞は、1面にデモの大きな写真を載せて3ページにわたって18日の全米デモを報道していました。ただし、テレビは相変わらず悪い対応です。特にCNNは、ブッシュ政権の意見だけをたれ流し、逆に反戦運動の扱いも小さいですし、反戦運動へ批判的なコメントをつけ加えたりもしています。
 3ヶ月前には、主なメディアが反戦運動をとりあげることは極めて希でしたが、世論の盛りあがりに押されて、正当な扱いをし始めています。
 また、多くのメディアが、ブッシュ政権と石油会社の関係をとりあげ始めています。あるテレビ局は、ブッシュ政権の閣僚の多くが石油利権に関与しているという報道を行いました。アフガニスタン空爆後、ハリバートン社が石油パイプラインの敷設権を獲得したと報道し、この会社はチェイニーの石油会社だと伝えています。
 ブッシュ政権の高官のうち41人が直接石油企業とつながっており、彼らによってブッシュ政権の政策が決められているのです。これらの事実が次々と暴露され、このため多くの人が反戦運動に参加し始めました。
 ホワイトハウスが、石油会社にのっとられており、何のために税金が使われ、どこに消えたのか、そして誰が得をしているのか、皆が関心を持ち始めています。こうした事実は、これまでは左翼のメディアしか報道していなかったのですが、今や多くのメディアがとりあげ始めています。CNNなどの大きなメディアを除けば、ほとんどのメディアがイラク攻撃に疑問を持ち始めているのではないでしょうか。
 フセイン政権を軍事的手段をもって打倒することが果たして正義なのか?(これについては今も50%以上の人がブッシュを支持していますが)もしイラク攻撃を行ったときに、どれほどのアメリカ人の命が失われることになるのか?はたして、国連や国際世論の支持を得られるのか?罪のないイラク市民がどれほど犠牲になるのか?などなどの疑問を呈しています。
 街角のインタビューにしても、国連安保理でドイツやフランスがはっきりと攻撃反対の立場を表明したことが紹介され、「国連の支持や決議がないままに単独でイラク攻撃はすべきでない」という意見を紹介しています。
 また、反戦運動も積極的に紹介しています。東京やヨーロッパの反戦デモが紹介されていましたし、ほとんどのメディアが18日の反戦デモを報道しました。メディアの報道姿勢は明らかに変わり始めています。
 アフガニスタン空爆を圧倒的に支持した世論も、変わり始めています。財界のトップが戦争反対の意見広告を出したのを紹介しましたが、財界の支持なしにイラク攻撃はできませんから、ブッシュ政権は深刻に悩み始めています。ブッシュ政権もこうした戦争反対の世論がかなり大きくなりつつあることを深刻に受けとめ始めています。イラク攻撃を開始した場合、政権への打撃は相当大きなものとならざるを得ません。


税金は、戦争ではなく失業対策や教育に


編:18日のデモの意義は何ですか?
 まず、あの大規模なデモは、イラク攻撃への世論を大きく動かしました。今や緑の党や民主党だけでなく共和党支持者も反戦運動に合流し、その裾野が急速に広がりつつあります。そして、イラク攻撃に正当な理由はなく、石油欲しさにイラクを侵略しようとしているのだということを皆が理解し始めたのです。石油のために愛する家族や友人を失いたくないし、教育や福祉制度がこれ以上悪くなることをもはや容認できないし、イラク攻撃によってむしろ逆に安全が脅かされることになるわけです。
 戦争にはとてつもなく金がかかる事もわかっています。すべての年齢層の人がこの戦争は間違っている事を理解し、石油のために血を流すな!戦争に使う金があるのなら、教育や福祉にこそ税金を投入すべきだという世論が沸き起こっています。
 2つめには、市民の心理的な変化を生み出したことです。これまでは、なるようにしかならないと思って諦めていた人が、自分が行動することで、変えることができることを体得したことです。一度こうした体験をすると、その人は次ぎ何か問題が起こったときでも、あきらめるのではなく、解決のための行動をとります。

イラク攻撃開始ならブッシュ政権への打撃甚大


 今回ワシントンには50万人が、サンフランシスコには10数万人が、そして世界では数百万人がデモを行いました。これに参加した人々が、地元に帰って新聞を発行したり、グループを結成したり、また様々な講演会や集会を組織して、さらに多くの人たちに反戦運動への参加を呼びかけています。実際明日の日曜日には、多くのデモや講演会が予定されているのです。ユナイテッド・ピースやグローバルエクスチェンジといった組織に多くの人が参加し始めています。
 今回全米で数百万人がデモに参加しましたが、これは新たな運動の出発点となるでしょう。今回の全米デモで参加者は、いかにたくさんの人が戦争に反対しているかを実感することができました。多くの人が平和と正義を求め、変革のための行動を開始したのです。我々は、地域に戻り、人々と対話し、訓練し、友達や家族や職場の同僚を運動に引き入れることをそれぞれが始めています。もう黙っているわけにはいけないのです。
 今よりもっと効果的な方法を編み出すために、毎日議論を続けています。地元の地方議会を動かすこと、学校や職場で反戦の決議をあげること、こういった声を集めて州政府を動かし、ブッシュ政権を追いつめようとしています。このためにももっともっと自分たちを改造しなければならないのです。
 今は、反戦運動の第2ステージが始まったのです。それは、非暴力直接行動の段階です。ホワイトハウスや議会の前で座り込みを行い、場合によっては占拠したりする行動が必要となるでしょう。さらには、基地に入り込んだり、軍事物資輸送路に座り込んで物理的に軍事行動を止めるような闘いが展開されるかもわかりません。かつてガンジーやマーチン・ルーサー・キング牧師が呼びかけたような非暴力直接行動による抵抗活動が、今必要となっています。このため各地で、非暴力トレーニングが開催されています。
 今週末には、すべての国会議員に対し、イラク攻撃をやめる様に要請する活動も全米的に取り組まれています。

反戦運動高揚で民主・共和から造反議員続出


編:国会議員の態度は、変わりましたか?
 つい先日、民主党の実力者がブッシュに、イラク攻撃を行わないように要請したことが発表されました。共和党の中にも戦争反対の議員が生まれつつあります。今は日を追うごとに戦争反対を表明する国会議員が増えつつあります。昨年連邦議会は、ブッシュにイラク攻撃を容認する決議を行いましたが、これを再考するべきだとの声が国会議員の中に生まれつつあります。これは、多くの市民が戦争に疑問を持っているのに、代表である議員がその声を無視していいのか?という問いかけや圧力があるからです。今戦争推進を掲げ続けた場合、次の選挙でどのような結果を生むかを測り始めています。
 「サダムフセインは、退陣すべきだ」との声は今も圧倒的です。しかし、軍事力をもってこの目的を達成することについては、正当性がないと思い始めています。
 今すぐブッシュが戦争をあきらめるとは思いません。しかし、国会議員からも戦争を行うことに対して疑問が投げかけられ、ブッシュ政権はその対応に苦慮し始めています。共和党内部からも反対の声があがっているわけですから、もしブッシュが戦争に踏み込めば、政権は孤立する環境になっています。多くの人がブッシュ政権に距離をおき始めています。ブッシュは戦争に踏み込んだ際のリスクを真剣に計算しています。これは、我々にとっては、いいサインです。

国境がある限り世界には平和も安全もない


編:南北問題を主要テーマにしてきたグローバル・エクスチェンジが、なぜ反戦運動に取り組むようになってきたのですか?
 アメリカは世界で最も豊かな国です。そして世界最大の軍事力を保持し、最新の市民監視システムを作り上げた国です。そして米国政府は、第3世界の独裁政権を支援し、労働者を搾取し、罪のない市民を虐殺することに手を貸してきました。この事実に私たちは目をつむることは許されません。そしてこの国をどうするかは私たち自身が決めるべきなのです。そこで私たちは、地域でこの問題に取り組む運動を開始しました。ブラジルの労働者やアルゼンチンの農民から学び、さらに彼らとの連帯を作り上げる活動を行ってきました。
 全世界の半分の人々が1日2ドル以下の生活を強いられている一方で、数億ドルを稼ぐ人がおり、清潔な水が保障されず、伝染病でたくさんの人が死んでいる一方で、飽食で肥満になっている人がいるのです。このことをどう考えるのかを問いかけてきました。
 この現実を変えうるのは他ならぬ私たちですが、私たちは第3世界から多くを学ばなければならないと思っています。「貨幣とは何か?」「民主主義とは何か?」を問い、どのような世界秩序が好ましいのかを考えたとき、第3世界から学ぶことがたくさんあることに気がつきました。米国内には甚だしい貧富の格差がありますが、南北格差は国境の後ろに隠れて見えにくくなっています。国境がある限り世界の人々が安全と最低限の生活レベルを保障されるのは不可能だと思っています。


キッシンジャーは刑務所行きが相当だ


編:世界の反米感情について
 まず、反米と言った時に、政府と市民を分けて考える必要があります。私自身世界を旅行してみて米市民を嫌悪している人はそれほど多くないと感じています。ただしブッシュ政権の対外政策を変更させる努力が足りないという批判には、同意します。
 米国政府への嫌悪感に関して言えば、これまで各地で戦争を起こしたくさんの人を殺してきました。このため、ヘンリー・キッシンジャーは裁判を受けて残りの半生を刑務所の中で暮らすべきだとも思います。しかし実際は、こうした人々がたくさんブッシュ政権の中で重要な地位を占めています。
 したがって私は、世界の反米感情にまず真摯に耳を傾けるべきだと思っています。そうすることで我々の平和と正義を求める運動をより強化する必要があります。なぜ世界の人々がアメリカを嫌うのか?なぜ、世界の人々が米国の外交政策の変更を望んでいるのか?この疑問にどう答え、どう行動するのか?その模索の中でこそ、米国民の名による戦争を止めていくことができます。
 コロンビアに派兵するな!イスラエルに軍事援助をするな!イラク攻撃をやめろ!そういうことを反戦運動の中で主張することで、人々は、この戦争が不正義であるばかりでなく、アメリカの安全をもっと危うくする行動なのだと理解しました。
(おわり)


グローバル・エクスチェンジ Webサイト
http://www.globalexchange.org/

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