★反グローバリズム2002新春座談会★

対米テロとアフガン空爆で
世界はこう変わる!【上】

喜多幡佳秀+篠原良輔+鵜戸口哲尚

2002年 1月5日
通巻 1097号

アフガン戦争はグローバリズムの軍事版だ!

 無法者=ブッシュは、「2002年=戦争の年」と自ら位置づけ、早くも「次のターゲット」を見定め始めた。狙われているのは、ソマリア・イエメン・スーダン・フィリピンそしてイラク。既に特殊部隊を派遣し、下準備も始まっているようだ。
 市場原理主義を基礎とした経済のグローバル化=アメリカナイズを通して世界の所得格差は、確実に拡大。飢える南の民衆だけでなく、職を失った北の労働者・農民も巻き込んだ反グローバリズムの闘いも国境を越えて連携し、大きくなりつつある。こんななか、対テロを口実としたアフガン空爆が行われた。アフガン空爆は、経済のグローバル化を軍事的に保証する戦略の発動として始められたのである。
 アフガン空爆後の世界はどうなるのか?新春特集として座談会を行った。2回に分けて掲載する。(編集部)

【座談会参加者プロフィール】

■喜多幡佳秀/AWSL(アジア労働者連帯機構)日本支部・attack関西支部事務局。アジアの労働運動現場の声を紹介、国境を越えた労働者連帯を模索している。弊紙「海外レポート・アジアの労働運動」を執筆。
■篠原良輔/ロンドンにて旅行代理店・日本ショップを経営。弊紙「海外レポート・欧州編」を執筆。
■鵜戸口哲尚/翻訳編訳書『カンボジアの悲劇』『カンボジアはどうなる』、訳書『オールドパンク哄笑する』(チャ−ルズ・ブコウスキー)他。チモール・カンボジア問題、エイズの運動に取り組む。弊紙「論壇時評」執筆。 

テロを見ての第一印象

 鵜戸口 9月11日の攻撃を知った直後どのような感想を持ったか?まずお聞きしたいと思います。

■犯罪的な行為

 喜多幡 事件が起こった夜は、早く寝てしまい、知ったのは翌朝でした。そのため、「このテロ事件は『アルカイダ』というグループがやったらしい」という報道も同時に見ましたので、他の人とは印象が違うかもしれません。まず、DFLPが犯行を否定する声明を出しているのを知ってホッとしました。「アルカイダ=犯行説」に十分な証拠はありませんが、行為の正当性を宣言する声明も出ておりませんし、何を訴えようとしたのかも不明であることを考えても、今回の行為は人民の解放とは無縁の犯罪的な行為だとしか考えられません。

■「やったね」

 篠原 私は事件当日ロンドンにいました。昼の3時くらいでした。金融街シティで働く日系の人からの電話で、「アメリカでハイジャックされた航空機がWTCに突っ込んだ。このため待機令が出て会社から出られなくなった」というものでした。
 ロンドンでは5時に仕事を終わると、みんなパブに行ってビールを飲み始めるのですが、この日は、ほとんどの人はパブには行かずに家路を急いでおり、地下鉄の中も本当にシーンとしていました。「あー、戦争が始まったんだ」という雰囲気でした。英国も米国もこれまで本国が攻撃された経験がほとんどないために、これまでに経験したことのない「何か」が起こったという恐れを感じていたのだと思います。
 また、テレビを見ていると、やたらに「パール・ハーバー」が連発されていました。米国はあれだけの侵略戦争をやってきておりながら、本国が攻撃を受けたのは、わずか2回だけなのですネ。ロンドン在住の友人のパレスチナ人は、「言ってはいけないんだろうけども」と前置きをしてましたが、ニコニコして「やったね」と言っていました。僕も同感でした。喜多幡さんは「犯罪的」と言いましたが、心情的には、率直に言って、初めて米国がやられて「やったな!」という感じを持ちました。
 確かに犠牲になったなかには、下層移民や外国人が多かったりしましたが、米国の世界支配の象徴を3つきちんと狙ってやっつけたわけですから、原理主義であれ、何であれ、「米国をやっつけてくれれば拍手をする」というのがアラブ民衆の気持ちだと思います。

■米国没落の始まり

 鵜戸口 最初テレビ画面を見たときは、「ダイハード」か何かの1シーンだと思いました。画面の下にテロップが出たのですが、それでも現実だとは思えませんでした。その後の最初の感想は「これで米国も終わりだな」というものでした。というのは、世界中で抑え込んでる反米感情がこういう形で噴出せざるを得ないところまできたということです。軍事的に米国が敗北するということではなくて、米国が全体として目に見える形で下降線をたどる始まりになるなとつくづく思いました。ローマの凋落と同じようなものを感じました。これは今でも変わりません。



どうしてテロは起こったのか?

■米国の不正義と横暴

 喜多幡 テロの背景についてはすでにいろいろと適切な指摘が行われていますし、米国内でも「なぜ米国はこんなに憎まれているのか?」ということが話されるようになっています。また、被害者の家族がブッシュ大統領に宛てて、報復をしないよう訴える手紙を出しました。そのようななかで語られている米国の不正義と横暴が、テロの背景の本質だと思います。そうした背景とこの事件を起こした人たちの主張との関係についてはわかりませんが、米国の一貫した政策への怒りが、いつ爆発してもおかしくないところまできていたのは事実だと思います。
 一方、ニュースで流されているのは、星条旗を掲げる米国人の姿ですし、戦争を支持する人が9割を越えているということです。反グローバリズム運動では大きな役割を果たしてきた労働組合=AFL―CIOの委員長が、早々と報復戦争全面支持の声明を発表しています。
 しかし、一方で反戦の主張を書いたTシャツを着ていった高校生が処分を受けたり、星条旗のワッペンを拒否した郵便局員が周りから「おまえはオサマだ」と罵られたりという事態も起こっているのをみると、かなり強制されている面もあるし、メディアによるあからさまな扇動もあります。

■やはりパレスチナ問題

 篠原 やはり、パレスチナ問題を抱えながら中東地域を抑え込んできた米国の外交政策に対し、国家の枠や政府の力といった通常のやり方ではとても対抗できない現状があり、その先に今回のテロがあったのだろうと思います。
 日本の反戦運動と欧州のそれとは大きな違いがあります。日本の反戦運動は反米ではありません。人類愛とか人権とかがベースになっていて、政治を引っこ抜いている感じがします。何で事件が起こったのかということが語られません。これに比して英国やイタリアのデモは、はっきり反米デモです。「米の世界支配=グローバリズムがテロの原因である」として、反米を出した上で、「テロはいけない」とか「戦争反対」が語られているのです。
 それとパレスチナ問題です。ロンドンで参加したデモでは、4万人が集まっていましたが、「ノーピース、ノージャスティス」(正義なしに平和なし)=パレスチナ問題が解決されない限り何も解決されないというのがメインスローガンでした。集会でもパレスチナ問題がしっかりと語られ、デモでもパレスチナ人隊列が通ると、沿道の人も拍手をするという光景でした。反米とパレスチナ問題の解決が軸になっています。スウェーデンでフェア・トレードをやっている人たちも、パレスチナ問題が核心だと明言していました。

■テロとグローバリズムとは無関係

 鵜戸口 ノーム・チョムスキーは、米の外交政策が原因だと明言しています。が同時に、今回のテロとグローバリズムは何の関係もないとも言っています。米国内では反グローバリズムの運動が大きく広がっており、保守の側からも出てきています。95年のオクラホマの連邦政府ビル爆破事件などは、右からの反グローバリズム運動の典型です。したがって、シアトルからジェノバへとつながってきた反グローバリズム運動と今回のテロが底流で繋がっているかどうかは、難しいところだと思います。
 世界貿易センタービルが攻撃されて、被害者は下層の人が多いし、国籍は80数ヵ国にわたっているという事実は見逃せません。特に、米国市民でない人は下層の人が多いのです。グローバリズムのなかで世界から移民が集まってきている都市=ニューヨークにあのような攻撃を仕かければ、米国が攻撃されているように見えて、被害者は全然別な人々であるという基本的な矛盾を抱えていると思います。特にチョムスキーが怒っているのは、このテロによってパレスチナ人が一番の被害を被るということです。
 米国の景気も悪くなり、国内矛盾が極限に達しつつある時に起こった事件でもあるので、安易に反グローバリズム運動と今回のテロを結びつけるのには注意しないといけないと思います。

■「革命的暴力」への反省

 喜多幡 米国が強くてそれに対抗するには他に方法がないということではなく、解放運動の勢力も多くは、そのようなやり方に対しては否定的です。パレスチナ解放勢力自身も、イスラエル軍に軍事的に無茶苦茶にされながらも、大衆的抵抗闘争であるインティファーダと国際世論を武器にしてここまで盛り返してきたわけです。
 この流れのなかで、原理主義勢力は異質なものだと思います。日本の運動も革命的暴力やテロリズムについていろいろと経験から学んできたわけですから、今あの攻撃に喝采を送っている人々と感覚が違っていてもやむを得ないと思います。
 鵜戸口 ビン・ラディンらのグループの形成過程を見てみると、1970年代の解放運動主流からはずれた人たちが国籍を越えて繋がっていったようです。
 それから指摘したいのは、ケニア・タンザニア米大使館爆破攻撃についてです。スーダン政府は爆破犯を検挙して情報も渡すと言ったにも拘わらず、米国はスーダンを爆撃したので、スーダン政府は怒ってこの事件の犯人を釈放したという経過があります。犯人の一部は、今回のテロにも関与しているようです。専門家の中には、イスラエルの情報機関の暗躍を指摘する人もいて、テロの背景は魑魅魍魎の跋扈する闇の中と言わざるを得ませんが、米国がスーダン政府から犯人と情報を受け取らずにスーダン爆撃を行ったという事実は、依然として残っています。



グローバリズムの具体的展開

 編集部 アジアの労働運動は、グローバリズムをどのように捉えているのでしょうか?


■切り捨てを前提とした単一化

 喜多幡 グローバリゼーションと言うとき、私は、一般的に世界が1つになっていくという意味でのグローバリゼーションと、新自由主義的なグローバリゼーションを区別しています。1980年代半ばから言われ始めたグローバリゼーションというのは、新自由主義という特定のイデオロギーに基づいた世界の単一市場化です。
 従来の国際化のなかでは、まがりなりにも「後進国」なり「発展途上国」の発展のプランを出して、貧しい国もそのうち豊かになるという展望をウソでも語っていました。しかし、新自由主義に基づくグローバリゼーションは、それを放棄しました。貧しい国も発展していくという展望を放棄して、貧しい国は資本主義に組み込める部分だけを組み込んでいくというものです。
 つまり、インドなり中国なりで上流の中産階級を形成していく。そこをターゲット市場として工業化を進めていくというプランとなっています。これは逆の面から見れば排除です。発展に乗れない層は排除していくというのが、従来の「国際化」との根本的な違いです。
 もう一つは、1980年代のサッチャー・レーガン・中曽根の時代に新自由主義的政策がスタートし、一方で発展途上国向けに世界銀行・IMFが構造調整政策を押しつけていくという流れが作られました。資本が自由に移動し、安い労働力を確保できる地域で作った物を世界で一番売れそうな所に移動して販売するという、初めからグローバルな戦略のもとで、工場の立地からマーケッティングまで1つの体系としてやっていくというものです。しかもこれを国家より大きな経済力を持っている私企業が主導し、国家が後押しをするという形で展開しているのが、新自由主義的グローバリゼーションの根本的特徴だと思います。
 端的には、IMF・世界銀行が第3世界政府におしつける条件というのは、通貨を安定させるために財政支出を減らせということが1つです。要するに、社会保障費・公務員を減らし、教育・医療について受益者負担にするというセットです。もともと第3世界ではそのような社会保障が最後の安全弁の役割を果たしていたのですが、これを切り捨て、すべて自分でやっていけということです。極端に言えば、あとはNGOに助けてもらいなさいということです。実際、農村開発などで、行政がNGOにマル投げしているようなケースもあります。

■「排除]との闘い

 喜多幡 アジアの労働運動が直面している最大の問題は、この「排除」という問題です。「発展」からどんどん切り捨てられていって、内職・街頭での物売りなどで生計を立てるインフォーマルセクターといわれる層が圧倒的に多くなっています。多くの国で貧困層が都市人口の3分の1あるいはそれ以上を占めており、大変悲惨な生活状況ですが、それでも農村から都市へ人が出てくるというのは、農村はもっと悲惨だということです。
 「発展途上国」と言われますが、とても「発展している」とは思えないのです。取り残され、排除されているわけです。そういう所に、地域経済とは全く無関係に危険な化学工場や公害企業が、安い労働力を求め、製品海外輸出を目的として建設されます。
 「排除」の別の側面として、移住労働者をめぐる問題についても注目しなければなりませんが、私は直接には関わっていないのでここでは省略させてもらいます。

欧の反グローバリズム運動

■南北問題と環境保護

 篠原 WTOに反対する集会・デモなどでは、第3世界(アジア・アフリカ)の自立を支援する人々が圧倒的に多いようです。ただし、そのNGOの数は日本とは比較になりません。ロンドンのほとんどのNGOは資金作りと組織化のために店舗を持っており、20〜30万の人口の中都市なら、いろんなNGOが最低10店舗くらいはショップ展開をしています。キリスト教の慈悲の精神がベースにあるのかもしれませんが、地域の人がボランティアで店番をし、古着や支援国の民芸品を売ったりしています。あとは環境保護団体系NGOが、反グローバリズム運動を活発にすすめています。
 遺伝子組み替え農産物の問題にしても、日本では「食べ物の安全性をまもる」という側面が中心に語られていますが、欧州では「米国のグローバリズム戦略と南北問題」という政治問題として語られています。遺伝子組み替え作物の種は米国が独占し、世界中に輸出して原生種を駆逐していき、世界の食糧生産を支配しようとし、そのなかで「北」の豊かな人々は安全な有機農産物を食べ、「南」の貧しい人々には安い遺伝子組み替え作物を食べさせるという戦略でアグリビジネスが展開されているという認識です。

■米国内で広がる所得格差

 鵜戸口 米国では、グローバリズムについて、国内の経済格差が広がっていることに強い危機感を感じています。また中西部の農民が、多国籍アグリビジネスの横暴さに対して、自分たちが衰退していくという危機感が反グローバリズム運動の強い動機になっています。


ほころび始めたグローバリズム

■多国籍資本を追いつめる消費者市民運動

 喜多幡 最近では、アフリカでのエイズ薬の問題がクローズアップされました。知的所有権とエイズ対策の衝突のなかで、結局製薬メーカーが妥協して、アフリカ諸国の主張を受け入れる形で決着しました。遺伝子組み替え食品にしても企業は、相当市民の反発を気にせざるを得ないわけです。市民運動が状況を根本的に変えるとは言えないにしても、多国籍企業活動をかなり制約している点を見逃してはいけないと思います。
 公共サービスの民営化についても、最先端ですすめてきたところで破綻が見えてきています。カリフォルニアで電力危機が起こり、ニュージーランドの規制緩和もブレーキがかかり、英国で民営化された国鉄も事故続発で再国有化の運動も始まっています。電力・交通といった生活に直結するようなところで、新自由主義的政策の決壊が始まっています。これらの矛盾をいかに政治化させるかは課題ですが、同時にその可能性が広がっており、その力がシアトル以後に反映され、ジェノバに10万人集まるところまできたのだと思います。
 鵜戸口 1990年代、南北格差は急激に広がってきました。多国籍企業は第3世界で食糧の買い上げを激しく展開していますから、農村部の共同体が破壊されて、第3世界の農民が移民労働者として世界に散らばってきています。アジアの移民問題はどうなっていますか?
 喜多幡 典型としてはフィリピンがあると思います。人口6000万人くらいの国で、移住労働者が400万人います。驚くべき数字です。全ての家族のうち誰かが移住していて、それで経済が成り立っているような状態です。しかも、国家が奨励しているわけです。雇用政策というのが、海外で雇用を確保したというものですから、まともな経済政策とは言えません。これはフィリピン経済にとってもマイナスです。教育を受けて技術・知識を持っている人がどんどん流出していくということですから。
 グローバリズムのなかで、労働力も自由に移動したらいいじゃないかという議論がありますが、そうとばかりは言えないと思います。
 もう1つの典型は、中国の農村から都市へという流れです。無許可で都市へ流入しているので、無権利で過酷な労働を強いられています。
 移住労働者を支援するネットワークは、各国でできあがりつつあります。特に韓国では、従来は抑圧される国家として運動主体は位置づけていたわけですが、ここ数年の変化のなかで、同時に抑圧する側としても存在していることの意識化があり、移住労働者の問題や、韓国から進出した企業での労働問題を取り上げるような動きが始まっています。
 鵜戸口 今後、移民労働者と反グローバリズム運動がどう結合するかというテーマが大きくなってくると思います。フランスでも移民排斥の動きが激しく、一方で反グローバリズムの運動も激しく、この2つが矛盾してしまっています。


(つづく)

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