近くて遠い・・・最近のヨーロッパ事情

「正義なくして平和なし」
ロンドンの反戦デモは、
「反米・反グローバリズム」の基調が

しっかりしている

ロンドン/篠原良輔

2001年 10月25日
通巻 1091号

「不公正が是正されなければ、平和はないぞ!!」

 「ノーピース・ノージャスティス」―これがロンドンで行われた反戦デモのメインスローガンであった。そして、これは闘うパレスチナの人々が繰り返し叫んできた言葉でもある。イスラエルは言う、「平和を」と―しかし、「不公平が是正されなされなければ平和はないぞ!!」
 英米によるアフガン空爆開始から最初の週末の10月13日、ロンドンでは英国の伝統的な反核・反戦団体「CND」の呼びかけで4万人が集まるデモがあった。市内のハイドパークに結集し、市中心部のトラファルガー広場までの約3キロのデモコースを、(多分)100を超える国籍・民族・部族の人々がぎっしりと埋め尽くした。
 昼12時集合・13時デモ出発であったが、集合地点のハイドパークコーナーへ向かう赤い2階建てバスはすべて途中で運行打ち切りとなり、ほとんどの参加者は歩いて公園まで向かった。公園の入り口では「社会主義労働者党」「社会主義者アライアンス(連合)」などの左翼組織が署名やビラ配りを行っており、用意した反戦プラカードを参加者に配っていた。その党名入りのプラカードを参加者が何の気兼ねもせずにもらって掲げて歩くところは日本の感覚とは随分とちがう。アラブのオバサンも頭キンキンのロックのアンちゃんも平気で同じ「社労党ネーム入りプラカード」をもって歩くのだ。(参加者に精神的垣根がない! ということは参加組織にも「囲い込みセクト性」がない?)

 

「パレスチナ問題の解決なくして、問題の根本解決はない」

 場所がロンドンだけあって、いわゆるアングロサクソン系のイギリス人らしき人々が半数くらいいるが、あとの半分は世界各地からロンドンに移動してきたファミリーだろう。一目でモスレムとわかるオジサンやオバサンがブラッと歩いて来ていたり、「タリバン(神学生)」と思われる集団やクルドやスリランカのグループもいる。「ビンラディンはアメリカが育てたのであって、アメリカの自業自得だ」と看板に図解して説明しているアフガン人グループもいる。彼らは多分、ビンラディン氏やタリバンに批判的な人々であろうが、だからといってアメリカにつかずに批判しているところが気持ちいい。NGOグループもいろいろ集まっており、オックスファムなどの第3世界支援組織やグリーンピースなどの環境保護団体から動物愛護グループまで見かけた。大学生グループもそれぞれ大学ネーム入りの横断幕を掲げて歩いている。ざーっと見渡しただけで20大学くらいの名前が見えた。32年も社労党をやっているという署名集めのオッさん≠ヘ「こんな大きな集会はベトナム反戦以来だ」と喜んでいた。
ロンドンでのデモの様子。パレスチナの隊列は一番の注目を集めていた。 デモで一番注目を集めていたのはパレスチナの隊列。いくつかのパレスチナ関連のグループがひとかたまりになり、パレスチナの女性達が先頭をリードして1000人くらいの隊列をつくっていた。ここが一番元気であったし、みんなの関心の的であった。「ブッシュ・シャロン・ブレアよ、思い知るがいい。パレスチナは必ず解放する」、「正義なくして平和はない」、「我々は闘いをやめない」―連日イスラエルと闘う占領地の空気がそのまま伝わってくるような掛け声がひびいていた。
 「一連の『テロ・報復事件』の背景にはパレスチナ問題があり、そのことの公正な解決なくしては問題の根本的解決はない」ということは、集会・デモの場でのみならずイギリスのマスコミでもキチンと語られている。日本でいくつかの反戦集会に参加したが、「パレスチナ解放」への言及はなかなか聞けなかった。多分、入ってくる情報の「身近さ」の差ではないだろうか?

 

世界の現場と連なった生きた情報・人々に出会える

 ロンドンのデモの基調は「反米/反グローバリズム」である。シアトル・ジェノバと続く一連の「グローバル化に反対する人々の流れ」が今回の反戦集会・デモも引っ張っている。日本の集会では、なんとなく「アメリカ批判はちょっと置いておいて…」という雰囲気を感じたが、ロンドンでは「世界の基本的な問題はアメリカンスタンダードによるグローバル化にあり、それにストップをかける」という視点がしっかりしている。
 日本では「ニューヨークの犠牲者に哀悼の意を捧げて…」ということ枕詞のように使われているが、ここでは「そんなことを言うなら、その前にパレスチナの犠牲者にまず哀悼を…」ということになる。「アメリカ=正義の側につくか、テロ=悪の側につくか?ショウ・ザ・フラッグ!」と脅されておたおたしている小泉内閣のアメリカ追従方針や、感情を煽った日本のマスコミのテロ撲滅論調はここでは通用しない。隣りでアフガン人が歩いており、パレスチナ人が叫んでいる。アメリカ人も、そしてタリバン(神学生)もいっしょブッシュを批判してデモに参加している。ここにくれば、世界の現場と連なった生きた情報と人々に出会える―そんなわくわくとした集会とデモであった。
 そんな多国籍・多民族の人々が集まるデモ隊のなかで何人かの日系の参加者を見かけた。人目を引いたのは「日本山妙法寺」のお坊さんたち。坊主頭で黄色の袈裟をかけ太鼓をたたき、五人くらいで歩いていた。一人で「非暴力」と漢字で書いたプラカードを掲げてもくもくと歩いている男性もいた。英語のプラカードに「戦争反対」などの日本文字を書き加えて歩いていた6人の留学生や在住者のグループもあった。近い将来には、これらの日系の人たちが連絡を取り合い、「持続する日系の国際人民連帯グループ」ができてくればいい。

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