11/2緊急シンポジウム「日本外交と反テロ世界戦争」レポート

「さらば外務省」の提起したもの

2003年 12月5日
通巻 1163号

●緊急シンポジウム 日本外交と「反テロ」世界戦争

冒頭、天木直人前レバノン大使は、「解雇」経緯の他、世界平和は、中東和平交渉を公平な形で進めなければありえない、と再度強調。パレスチナの現況に、いかに多くの人々が身を挺して抵抗せざるを得なかったか。今春、パレスチナ支援中にイスラエルの軍用ブルドーザーに轢殺されたISMメンバー、レイチェル・コリーさんの例を引き、また、命を救うべき看護婦であった十代のパレスチナ少女が、なぜ自爆攻撃をかけねばならなかったか?二七歳の女性弁護士による自爆攻撃がなぜ起こらねばならなかったか?と問いかけ、我々が享受している平和がいかに貴重なものであるかを自覚すると共に、占領下にある人々の状況を思い描く必要を訴えた。

 一方、日本と最も緊密な外交関係にある米国は、指導者と軍需産業が一体化している点を指摘。米国メディア産業の情報操作に触れた上で、我々自身が、様々な「事実」を検証し、状況を判断する必要について語った。

 翻って、世界の中の祖国を見る時、小泉首相は、果たして深い考えに裏打ちされた判断をしているかと問い、最高責任者でありながら「自分には二人の行夫がいるから、外交は大丈夫」と丸投げしていることを批判。日朝平壌宣言では、宣言のどこにも拉致問題は明言されておらず、その結果、現在の混迷があるとした上で、権力の使い方に見識を持ち、間違った時は責任を負うべきだと述べた。

 著作などで国家公務員の守秘義務を守っていないという批判には、国家の害にならなければ、情報公開し、国民の判断を仰ぐべきであると指摘。これまで外務省は、米国に追随し、国民の本当に欲する外交を行わなかったばかりか、都合の悪いことは隠蔽してきた、との認識を示した。

●日本外交の哲学的貧困

続いて講演した山脇教授は、本紙一一三五号でも触れた、スコット・リッター氏の講演に言及。イラク戦開始前から、米国は大量破壊兵器除去が目的ではなかったことを明らかにした上、天木氏の著述通り、初めに戦争ありき、であったと述べた。戦争開始前のIAEA報告では、ブリクス、エルバラダイ両氏が、査察成果の一定評価と続行を求めたことに触れ、この報告を無視して、強行に戦争を推進したブッシュ政権を、リッター氏同様、酔っ払いに運転されている車と評し、世界中に巻き起こった戦争反対デモに対して、川口外相が出した「このようなデモは、イラクに誤ったシグナルを与える」というコメントには、「ブレーンの用意した文言を述べただけ」と評した。

 また、アラブ諸国の心象を一切無視した上、権威に胡坐をかいて世論をミスリードし、イラク戦争を支持した東大教授達が、外交の主体は、ナショナルエリートが行うもの、という錯誤を犯したと批判。彼らの論理は国際法より米国に従え≠ナあり、学問的良心も自立も欠くばかりか、日米安保条約の規定とも矛盾すると指摘、普遍的な理念を放棄した御用学者であると結論した。

●国を亡ぼし国民を不幸にするイラク派兵

 第二部冒頭、防衛庁OBで加茂市市長の小池清彦氏が発言。「ゲリラ攻撃が多発するイラクへ自衛隊を派遣する根拠とされるイラク特措法は、詭弁であり、憲法九条に違反するばかりか、自衛隊法にも抵触する」と述べ、派遣される自衛隊員は、劣化ウラン弾による被爆に不安感を持っていることを明かした。あまりに理不尽なことを彼らに負わせれば、極めて重大な結果を生む可能性にも言及。憲法九条を活かしての派兵阻止を訴えた。

●新しい世界ビジョン

板垣雄三名誉教授は、「瀋陽総領事館での日本の対応や西北大学での寸劇事件を見ると、日本人は、世界を知る方法に問題がある」と述べ、「国民の関心は世界の中の自分を判断するより内側に向き、視野狭窄に陥っている」と述べた。

 また、わが国の中東認識は、欧米流の誤解や偏見に影響された見方が多く、パレスチナ・イラクなどの抵抗が報じられると、抵抗勢力が悪いと思われがちだ。しかし、そのような見方は、正しいだろうか?圧倒的な軍事力による占領に対する、人間の尊厳を賭けた抵抗ではないのか?と指摘した。

 現代世界は、行き詰まりがあればあるほど、「テロ戦争」が行われる。しかし、大切なことは、ホロコーストや九・一一のような衝撃的な事実を理由に、排他的に考えるのではなく、世界中に同様のことがあるという視点を確保することだと述べた。問われているのは、戦争することではなく、共生への道なのである。

●東北アジアの平和と安定のために

岡本厚『世界』編集長は、「ブラックボックスの多い、北朝鮮情勢の分析に当たっては、分析の条件を問うことで、アウトラインが見える」と述べ、現代北朝鮮を考える上での前提条件を、以下のようなものとして掲げた。

 @朝鮮戦争は終わっていない。Aエネルギー、食糧供給の破綻。B危機的条件にありながら、崩壊しない理由は、九四年の米朝基本合意による原油供給にある。

 さらに、韓国の「太陽政策」の背景を、「戦争や体制崩壊で難民が発生した場合、周辺諸国がこれを安定的に吸収することが困難なため」と説明した。また、以上の条件下で、北朝鮮の切り得る唯一の外交カードは、核開発だ、と語った。

 一方米国は、北朝鮮を「悪の枢軸」に加えたことで、二国間交渉の可能性を自ら閉ざした。対する北朝鮮も、深刻な飢饉とエネルギー不足によって危殆に瀕しており、何としても状況を好転させる必要があった。六者協議の前提である。従って、米朝を中心として中・韓・日・露がこれを囲むという形であり、中心課題は核開発問題になる、と述べた。

 一方、我が国と北朝鮮の外交に関しては、「六者協議の中で二国間交渉のきっかけを作ることが大切」であり、「ここで、歴史の清算問題、拉致問題が話し合われなければならない」と述べた。

 首相の日朝交渉では「開始したのは良いが、目的やどういうことをするために行ったのかがはっきりしないために、変な形で切ってしまったことが問題だ」と述べ、外務官僚が、帰国した際に「外交的なことは何もやっていない」と漏らしたことを明らかにした。

●「さらば外務省」を公共性の観点から読む

小林教授は、公電という公の電報を打電したことを原因とする「解雇」は、外務省内部における公共性の不在を表すと批判。内部人事の私的性格についても懸念を示した。また、公共性の欠如がもたらす弊害として、その私的性格からくる恩顧主義的な関係を指摘し、このような親分―子分関係が、政・官・外交に及ぶことによる私物化に警鐘を鳴らした。このような関係では、論議を尽くさず、何ら客観的根拠もないまま、犠牲的奉仕を求められるからである。また、この私的性格から、公金を横領しておきながら、そのことに何の違和感も持たない公私混同が生じると批判した。

●外交は誰のため

最後に、池田氏は、憲法を分かりやすい日本語に表現しなおした上で朗読。その上で、米国は極東有事の際、どのように振る舞うかについて、ベトナム戦争時に韓国駐留米軍二万を撤収した例を挙げ、日米安保条約に疑念を呈した。また米国が、日本近海でのみ潜水艦低周波ソナーを用いていることに対して、鯨の脳に重大な影響を及ぼすという理由で、他の総ての予定海域で禁止されたものが、何故、日本近海などの東アジアで使用されるのかに疑問を呈した。

●孤立の中の危機

本来為されるべき外交努力もせず、自らの出世だけを目指す一部の政治家と官僚によって、この国の政策のことごとくが、密室で決められる。その過程総てが隠蔽され、政治が左右される。こんないい加減が通ってしまうほど、日本は劣化した。しかも、これを指摘する者の多くが、外国人なのである。例えば、米国の元駐日大使、アマコスト氏は、「日本の外交は、米国のみに偏っている」として、選択肢の狭さ、友邦の欠如を指摘しているし、元独首相のシュミット氏も同じことを注意している。

 数年前までなら、日本をアルカイダが脅迫するなど、あり得ないことであった。それだけアラブの人々は、日本に対して好意的だったのである。しかし九・一一以降の、日本外交の決定的ミスを通じて、彼らは路線の変更を余儀なくされた。今、起こりつつある総てのことが、憂慮された範囲内で起こっていることなのである。

人民新聞社

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