「世界の警察」アメリカの一隅から

ブッシュ政権内でも噴出するイラクからの軍撤退論

2003年 12月5日
通巻 1163号

一一月二日、イラクで大型ヘリが撃墜され、兵士一六が死亡、二一人が負傷した。他でも一兵士と二軍属が死亡。一日の死者数としてイラク侵略での最高記録となった。

 これは、一一・二一にすっぱ抜かれたラムズフェルドの内部向けメモ(一一・一六付)を立証するものである。ブッシュ政権はイラクでの進展を吹聴している。だが、ラムズフェルドが同メモで自供しているように、合州国はイラクでもアフガンでも対テロ戦線でも泥沼にはまりこみ、全然展望がもてないのが実情。そもそもわずか四名に配られたメモが、マスコミにすっぱ抜かれること自体が異常。側近内にさえ、ネオコン派の表向きの姿勢に不快を感じている人間がいるようだ。

 うなぎ登りの死傷者数は、与党内においてすら軍の撤退を求める声を大きくさせている。ブッシュは、「目的遂行まで撤退はありえない」と繰り返す。それを強調せざるをえないほどに、撤退要求が強くなっているからである。巷では、ヴェトナム侵略戦争での敗退になぞらえる論調が続出。あるいは、二〇年前ベイルートで海兵隊基地への爆弾攻撃(二四一死)からの撤退や、一〇年前ソマリアでヘリが撃墜され撤退したことも、例として示される。ブッシュ政権の建前に対する疑惑が強くなるばかりだ。同時に、正義の使者、不敗・・・といった神話もひっくり返されている。

 与党議員を中心にして、「衛星諸国に兵を出させ、合州国軍を大幅に減らせ」という声も強い。死傷者の増大が、次の選挙に悪影響を及ぼすのを回避したいというエゴ丸出し。だが、最大の派兵国とみなされていたトルコが、イラク人民の声で派兵取りやめを決定。ペンタゴンは予備兵や国土防衛隊を増派するしか能がない。

企業のための戦争をやめろ!兵士・家族に広がる反戦機運

紙面の都合から今回は幾つかのエピソードを並べる。

◆九・一一は真珠湾攻撃になぞらえられる。が、あれから二年余りも経つのに、ハリウッドは対テロ戦などを映画化するのをタブーとしてるかのようである。六〇年前は、五本に一本は「対独対日」の戦争昂揚物だったのとは大違い。「誰もブッシュ役なんかやりたがらんよ」とは陰の声。

◆負傷兵で有名になったのはジェシカ・リンチ。が、あれは例外中の例外。連夜のように大型輸送機がアンドリュー空軍基地に負傷兵を運んできている。でも、ペンタゴンはセレモニーも行わないし、メディアも無関心。二千名近くが負傷兵として帰国。その多くは手、足、顔の一部などをなくしている。ゲリラだったら勿論のこと、湾岸戦争時でも、死に至るケースが装備の改善、医療体制の整備で死者数減らしに貢献している。そして、うなぎ登りの死者数が彼らを隠している。でも、いつまでも無視し続けることはできないだろう。

◆陸軍は、ポガニ軍曹を「臆病で恐怖におののき任務拒否をした」として訴追。ポ軍曹は特殊部隊隊員で、九・二六にイラクへ出発。現場配備の直後に、イラク人のぐちゃぐちゃになった身体を見てパニックに陥り、任務遂行不可となった。そして本国送還。類まれな罪名で軍事法廷に送られた。臆病風が流行っていて、軍曹はその見せしめのようだ。

◆鳴りもの入りの一五日間の休暇。一五日後にバルチモア空港に集合しなかった兵は少なくとも一六名。ペンタゴンは、「休暇兵は三千。だからそれはほんの小さな数値」と開き直っており、正確な数もどう対処するのかもノーコメント

◆ブッシュもライス女史も「わが国は、崇高な大義に関わったなら必ずそれを成し遂げる」と大見栄を切る。だが、すぐ足元のハイチはその嘘を実証する。九年前ワシントンは、軍事政権を追い払い、アリスタイドを据えた。しかし「民主的な国家再建」という大義は投げ捨てられ、平和維持軍は撤収、経済援助も大幅カット。アリスタイドは今も政権の座にあるが、腐敗政治は八百万の民を貧困、栄養不足等で苦しめている。アフガン、イラクもそのうち同様に

◆イラクの再建計画での受注企業は、ハリバートンなどブッシュの縁故企業ばかり。そしてその見積もり価格は市場価格をはるかに上回る大幅水増しだという。これがブッシュの言う民主主義、市場原理

◆一〇・二五反戦集会では巨万の人民がワシントンへと結集。兵士の家族からも「この戦争は大義(=建前)とは程遠い。特定の企業の利益追及への利用だ。即撤兵せよ」という批判の声。         (小)

人民新聞社

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