【座談会】民主党を勝たせた「小泉構造改革NO!」の声

低投票率で空振りに終わった「政権選択」「二大政党制」

2003年 11月15日
通巻 1161号

小沢福子(55才)

大阪府議。’74年豊中市議に革新無所属で初当選。以後、住民運動の立場で議会活動を展開。’99年、辻元元衆議に要請されて社民党に入党。辻元氏逮捕の際、社民党に「権力の弾圧に対し断固闘うべし」との意見書を提出した。

青木孝嗣(23才)

’01年’02年とアフガニスタンを訪問。帰国後、アフガニスタン難民支援活動のために大阪入管に通い詰める。難民法改正の際は、入管前でハンストを行う一方で、国会へのロビー活動も。イラク戦争を契機に平和活動にも参加。

津田道夫

能勢農場代表

仲村実

管理職ユニオン関西書記長

編集部より

選挙が終わった途端に政府税調が増税案を答申し、消費税値上げを含んだ年金改悪案が発表される。現金なものである。

 先の衆院選は、低投票率のなか自民党が比例区で第1党から転落。自民党退潮傾向は決定的となった。また、小泉政権批判の受け皿となった民主党が議席を大きくのばしたが、これは同党への期待というよりも自公保体制への批判票と見るべきである。したがって、二大政党制への動きは未確立で、再度の政界再編は不可避だ。

 11月13日、衆院選総括座談会を行った。出席者は、小沢福子・仲村実・青木孝嗣・津田道夫の各氏。運動現場も選挙への関わりも様々な方々に、様々な視点から「衆院選」を切っていただいた。

与党に対抗できる政党に、対抗できる数を与えた有権者

【編集部】選挙結果の特徴や感想をお聞かせください。

【小沢】選挙は、非常に多くの市民が参加し、有権者の総意が反映されるものです。「大衆はマスコミに踊らされる」とよく言われますが、市民は日常のなかでマスコミからの情報を咀嚼し、各々で判断していると思います。したがって、議員や政党サイドから言うと、有権者の意識やニーズをどれほど正確に掴んでいたかが選挙結果に表れてきます。

 社民党は今回、護憲とイラク派兵反対を主張しました。それは正しかったと思いますが、現実的な政治状況について提言し、切り込むことができたかと言うと、失敗したと言わざるを得ません。

 つまり市民は、国会が数で勝負するところだということを知っていますから、今回の選挙は、「自公保政権与党に対抗できる政党に、対抗できるだけの数を与えた」ということだと思います。北摂地域(大阪府北部地域)の選挙区選挙で、自民党は比例区で一名だけです。それは、「与党だけで物事を決めていくことを許さない」、という意思表示だったと思います。

【仲村】投票率が下がったということは、マスコミ等が提起した「二大政党制・政権選択・マニュフェスト」という争点・スローガンは、有権者を惹きつけなかったということです。七年前に小選挙区制度が導入されて二大政党制への道筋が つけられましたが、必ずしも支配者側のねらいどおりにはいっていないのではないでしょうか。

 私は、基本的に選挙はあまたある政治活動の一コマと考えていますし、今回の選挙は争点も魅力も乏しく、大きく何かが変わったとは考えていません。

【青木】投票率が低かったことに失望しました。今回の選挙は、日本の行き先を決める重大な選挙だと思っていたのですが、イラク派兵・憲法改悪も 争点にならず、棄権した友達も多かったようです。民主党に票が集まったことについては、「自民党政権を変えていこうじゃないか」という意思表示だと、前向きに捉えています。当面は厳しい政治状況になるかもしれませんが、次に期待できる結果ではなかったかと思います。

【津田】私の選挙区では、毎回、自民・民主・共産が立ちます。これまで私は、小選挙区は共産党、比例は社民党に投票してましたが、今回は選挙区は民主に投票しました。「民主と自民が競り合っているのなら、民主に入れる方が、一票が生きるんじゃないか」という程度の判断です。こういうふうに考えた人が多かったために、今回のような選挙結果になったと思います。したがって、選挙結果がそれほど大きな意味を持っているわけではありません。そもそも選挙が自分たちの暮らしや人生に占めているウェイトなんて、まだまだ微々たるものです。

【津田】大阪府内で自民党が比例票で一位を占めた地域は、周辺部の五町村のみです。こうした傾向は、歴史的にも全国的にもはっきりしています。つまり、自民党が政党政治のなかで中心を占める時代は完全に終わったということです。

 大阪府内の選挙区各地における比例票の獲得順位は、概ね@民主、A自民、B公明、C共産、D社民となっていますが、一位が公明という地域が二つ(大阪市平野区と門真市)、二位が公明という地域が七つあります。総じて大阪府内では貧乏人が多い地域です。公明党は低所得者が多い地域で票を集め、この階層を基礎としてることがわかります。

 一方、比例票で共産党が公明党に勝った地区が一ヵ所だけあります。島本町です。ここは、インテリや中・上層が多い地域です。共産党は、社会的弱者の党だとか、労働者の党だとか言っていますが、言っていることと党の実体がずれていることがわかります。これは党にとってかなり深刻な事態で、おざなりの総括ではすませられない問題です。

公明党は現世利益で誘導します。一方共産党も、まず要求・利害で組織し、そこから政治や思想にまで高めていこうという方法でしたが、今や共産党は、そういう活動すら弱まり、これをしっかり行う公明党が、社会的弱者・低所得者にしっかり食い込んでいるということです。今後国会内で公明党の存在感はますます強まりますが、我々が政治活動する上で、公明党を「宗教政党だから」と切り捨てるのではなく、社会的基盤も含めて評価をし、対抗していく運動を構築する必要があります。

政党による政治の独占は崩れる

【編】社・共の激減をどう見ますか?

【小沢】大きな政治の変わり目においては、組織力がないと流れの渦に呑み込まれてしまいます。自民党政治に終止符を打とうという流れのなかでは、弱小政党の社民・共産がだめになるのは当たり前のことです。だからこそ、あらためて社民党が少数政党として、「平和と社会的弱者の党」として再出発する際には、果たさねばならない役割をしっかりやりきっているのか、が厳しく問われています。

 ただし、一〇年〜二〇年という長いスパンのなかでは、政党が政治を独占することは不可能になります。市民が動き、自分たちが闘いとって政治を動かしていくことになりますので、どういう市民組織を創り出して、どのように活動するのかが課題となります。

【津田】社民党も共産党も自分たちがどう思おうが、既成政党のなかの一つでしかありません。大きな体制の枠組のなかで組織され、存在し続けてきたわけですから、「自分たちは自民党や民主党と違う」という主張は、説得力がなく響きません。だから、社・共が激減したという結果をみて、国民の反戦意識が薄れたとか、平和憲法が危機に直面しているとヒステリックに言い立てるのは、間違っています。確かに危機的状況はありますが、それは選挙によって画期的に深まったわけでもないのです。むしろ、直面している危機突破を既成政党に託したり、一喜一憂するのではなく、市民自身が自らの主張と展望を本格的に表現できるような政治主体を作っていくことが本質的な課題です。

 世間の人は、選挙で世の中が変わるなんて思っていません。本当に世の中を変えるという作業は、自分たちの手でするしかないのはわかっているのです。それは健全な発想です。

【青木】私の場合は、イラク戦争反対の運動をやり、自衛隊派兵を決めた小泉が許せないという思いがあるので、選挙にも強い関心を持ちましたが、若い仲間や友人に選挙に行こうと呼びかけても、「投票したいところがない」と言っています。「魅力ある政治」と言っている人自体に魅力がないのです。

 代議士を通さないと市民の声が国政に届かないというシステム自身は変えなければならないと思っているのですが、難民法改正の際に国会でのロビー活動に比重を置き過ぎてしまい、このため政党の動きに翻弄されて、運動の停滞を招くという経験をしました。議員や政党に頼って運動をやっていると、いつか必ず行き詰まってしまうということです。選挙で国会の勢力地図がどう変わろうが、自分たちの声をしっかり国政に反映させる実力をもった運動こそが重要だと痛感しました。

ニュー自民党・ニュー民主党でさらに右傾化を心配

【編】二大政党制は進んだのでしょうか?

【小沢】今回の選挙で二大政党制への動きが進んだという評価は、間違っています。なぜなら、民主党なんて自民党のタカ派まで含んでいて、タカ派バリバリの西村慎吾が民主党を名乗っていることをみんな知っています。むしろ世間の人々は、民主が与党となった時に、社民党の二の舞にならずに主張を貫けるのか?「お手並み拝見」と思っているのです。

 さっそく新しい国会では、年金改正や郵政民営化、道路公団の問題が議論されます。また各地で開発の問題もでてきますので、この中で民主党が党内の意見をどう一本化して何を主張するのかを、みんなは見ています。  

【津田】自民党だって現状維持は不可能なので、政界再編は起こらざるを得ないし、皆もそれを望んでいます。このまま自民と民主の二大政党制とすんなりいくわけがありません。

【仲村】ただし、日本の政権交代を見てみると、村山政権や細川政権のように、部分的な政権交代が行われて、逆に反動の方に踏み出すという結果となっています。したがって、今回変化を望んで民主党に投票したものの、ニュー自民党・ニュー民主党ができて、さらに右傾化することも十分可能性があります。

【青木】私自身が、九・一一事件で世界に目が向き、世界を変えるために日本も変えていく、という発想で日本の政治に関心を持ってきました。アメリカ主導のグローバリズムの矛盾が、ここ一〜二年で誰の目にもわかる形で展開しています。アメリカの横暴さや、ブッシュに付き従うしか能がない自民党・小泉政権の不甲斐なさも、普通の人にも十分見えてきています。「今の日本はおかしい」と感じている若い人も、かなり増えています。また、アメリカ流のグローバリズムが進めば進むほど、人々の交流と共通認識が拡大し、民衆側のグローバリゼーションも進んでいっています。

 こんななかで日本の政治も変わらざるを得ない状況は、すぐそこまできていると感じています。

【小沢】今は誰でも海外へ旅行でき、人々と出会うことができます。先日、キューバとカンクンへ行って来ました。私はカンクンで、集まった世界の農民が、言語は違っても共通の言葉をもって共に闘っている姿を目の当たりにすることができました。

 農民だけではありません。漁民も先住民も労働者もそうでしょう。こうした人々が国際会議を開き、対抗戦略を練っていっているわけです。新自由主義的グローバリズム対世界市民連合の対抗という世界の構図は、ますます鮮明となっています。

【青木】たとえばODAにしても、かつては我々市民には見えなかったので、不正や実体がバレなかったのですが、今はすぐにわかります。コトバンジャンダムの住民が、その実体を訴えに日本に来る時代になっているのです。こうなれば、旧来型の政治はやっていけるはずもないのです。入管制度にしても、全く時代と合わなくなっています。

【仲村】グローバル化のなかで、イラク派兵のように与党が法律を作っても、国内政治だけでは決まらない外的要素が増えています。

中央政治の機能麻痺

【小沢】大阪も東京も、日本の中の一つの単なる地域でしかありません。東京はそれを錯覚して、東京が日本だと思っているために、地方の拒否にあっているわけです。東京には、中央官庁と本社機能が集まって、そこで働く人々が住んでいるところです。この人々がオフィスの机の上で立てた方針は、地方の実状と食い違っているために拒否されて、東京のありよう自身が異常なのだという意識が徐々に浸透してきています。

【津田】日本で「政治を動かす」と言うと、「全国をとり仕切る ような政党で」という固定観念があります。左翼の頭のなかも例外ではなくて、政党を名乗るとなると全国組織でないとだめだという意識が強くあります。

 しかし、そんなところからは本当に世界と日本を変える政治的な力は出てこないのではないかと思っています。それぞれの地域で地域実情に見合った大衆運動があって、行政とぶつかったり交渉をしながら地方議員を作り、デモを組織したりという政治活動が積み重なっていかないかぎり、本当の変革の力にはならないでしょう。世界を見渡してみても、反WTOを掲げる市民運動にせよ農民運動にせよ、政党ではありませんが、政府を動かせるだけの力を持ち始めています。

【小沢】私は住民運動の全国交流会などにもよく出席するのですが、いつも刺激を受け、元気をもらって帰ります。他の地域の人のがんばりを見て、自分の住む地域の人々と一緒にこの地域のなかで頑張っていこうと思える関係があって、これらの関係が普遍的な要求に一致してきた時に、一気に変革のエネルギーが爆発するのだと思います。地域にいる一人一人の営みをお互いがどういうふうに認めあえるかが大事です。

【津田】そういう運動の現実と比較すると、既成政党の意思決定の仕方や活動のやり方はかなりかけ離れています。社民党も含めて、地域で運動をしている人々の本当のエネルギーを吸い上げ切れていないのです。つまり代表していないのです。

 ただし、私の考えとしては、社会変革の最終局面でそれらの力を代表するような政治勢力がなかったらだめだと思いますから、そういう政治組織をどう作るのか?どういう形態なのか?どういう方法で意思決定をするのか?を、大胆に自由に考えて模索・追及していくべき時代なのでしょう。          (終)

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人民新聞社

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