銃を持って他人の家に押し入り、
「歓迎されなかった」と
不思議がる米英

津田光太郎

2003年 4月5日
通巻 1140号

米軍の自暴自棄で、気化爆弾・
クラスター爆弾が投入される危険性


 3月27日、米国防総省は当初からの予定を繰り上げる形で、来月中にイラク戦争の地上部隊を10〜12万人増強することを決めた。現在湾岸地域には英米合わせて30万の軍隊が結集しており、そのうちイラク国内には約12万5000人が軍事展開していると言われている。これが、4月末までにイラクの前線に投入される部隊は米軍だけで22万5000人規模に倍増され、最終的にはこの地域に結集する英米軍は40万人近くにまでふくれあがるという。
 同27日、ロシア、中国など安保理の各常任理事国は、「英米のイラク戦争は、国際法違反」と国連安全保障理事会の公開協議で批判した。
 常軌を逸しているのは軍事作戦の規模ではない。爆弾を落とし、銃を持って土足で人の家に押し入り、「住人に歓迎されなかった」と不思議がり、「それじゃあ」と慌てて軍隊を増やす、その考え方そのものだ。ブッシュはそんなこともわからずに戦争を始めたのか。いずれにせよ信じがたい事だ。


「やられる前にやるんだ」方式の誤爆

 そもそもこの戦争の「宣戦布告」からしてそうだった。イラク国内に潜入させたスパイの情報から「フセインをみつけた」といっていきなり空爆を始め、「やられる前にやるんだ」と息巻いた。ブッシュの言う先制攻撃とは、確証があってのものではないらしい。報道は最近、「誤爆」という言葉で米軍を心ならずも「擁護」しているが、サウジに飛んでいったトマホークにしろ、たとえ鉄砲の玉がイギリス軍の飛行機に当たったとしたって、これは決して「誤爆」なんかじゃない。疑わしければ、やられる前にやってしまえというのが、この軍事作戦の根本なのだから。「誤爆」は、さらに拡大し、新たな「誤爆」をしなければならない事態に、米軍を追い込んでいく。
 29日付米紙ワシントン・ポストが、イラク支配政党バース党幹部や精鋭部隊・共和国防衛隊の司令官などフセイン大統領側近を暗殺する命令を帯びた米中央情報局(CIA)の特殊チームがイラク都市部に潜入、すでに複数の標的を殺害したと伝えた。同紙によると、同チームは中央情報局(CIA)と米軍特殊部隊の狙撃と爆発物の専門家からなり、約1週間前からイラクに潜入し、「標的」の居場所をリアルタイムで知ることができる特殊な通信手段や最新鋭の武器を所持しているという。
 こんなスパイ映画もどきのあやふやな情報が作戦全体を支配している。こんな恐ろしいことがあるだろうか。


「誤爆」こそが戦争の実体だ

 イラク南部ナシリヤの戦闘で負傷し、米軍基地の病院に収容された米軍兵士3人が27日、記者会見し「非常に驚いた。ナシリヤではほとんど抵抗はないはずと聞いていたのに」「イラク側の抵抗の強さは理解を超えていた」と、受けた衝撃の強さを口にしたという。スパイ映画もどきの情報が唯一のたよりとなると、人はこんな当たり前のことすら、わかからなくなってしまう。誤った情報を取り繕うために、新たな誤った情報がその中から作り出され、今、人が殺されていっている。
 市民団体「イラク・ボディ・カウント」の推計によると、「誤爆」などによるイラク市民の犠牲者は20日から28日までに最大で376人に上り、米英兵の死者は58人と予想以上に膨らんでいる。繰り返すが、この「誤爆」こそがこの戦争の実体なのだと、私たちは知らなければならない。そして、力を合わせて止めたいと思っている。
 このまま米軍の自暴自棄にさらに拍車がかかり、アフガンと同じように、気化爆弾やらナパーム弾やらクラスター爆弾やらが大量に投入されたなら、まさに取り返しのつかない事だ。

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人民新聞社

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