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岩手県の被災地から―復興格差の拡大

女の子の下着1枚ない村から 木造の「永久」仮設をつくる町まで

フリージャーナリスト 角田裕育

津波に遭った被災地を見ると、言葉を失っていく。凄まじい瓦礫の山。津波に呑み込まれてしまった街並み…。案内してくれる地元の人も、「何処がどうなっているか、私たちにもよく分かりませんよ」と、諦め顔で言う。

今回の震災は、阪神大震災と比較をよくされるが、被災地を実際に見ると、その規模は比較にならない。私は阪神大震災の時、神戸で被災した。神戸では、倒壊した家屋とそうでない家屋が並んでいたが、津波は、全ての建物を呑み込んでしまった。

想像していた光景ではあったが、あまりにも広範囲なので、何処から手を付けたらいいのかも分らない。ショベルカーが瓦礫撤去を黙々と続けていた。これでも日に日に瓦礫は撤去されているという。

被災地の人は、運よく助かっても、ほぼ例外なく、多数の肉親・友人・知人を亡くしている。感傷に浸る時間もなく、生きていくために、支援活動と連携しながら、徐々に生活を取り戻すことに淡々と務めている。

津波の来なかった内陸部の人々は、建築物の倒壊などがほとんどなかったため、「自分たちは被災者ではない」と気丈に言うが、彼らとて親類縁者・友人・知人を亡くしている。岩手県と隣接する気仙沼市の海水浴場によく来ていたという内陸部の人は、「ここの知人は、安否確認を取れた人と取れない人がいるんですよ」と淡々と話す。

被災地には、まだまだ支援が足らない。しかし、「もうウチの団体は資金が底をついたので、支援が不可能です。お宅が引き継いでくれませんか」と、他の団体にボランティアの「引継ぎ」をお願いするNPO法人等も出ている。

福島原発の陰に隠れてしまい、岩手県の支援は遅れが目立つ。被害が大きかった大槌町の避難所で暮らす女子高生は、ブラウス一枚の生活を現在でも送っていたりする。だが、大概の避難所が必要としている物資は水・食料で、「衣服類はお断り」という避難所が多い。

どういうことかというと、例えば下着なら、女性用下着が大量に届いて持て余しているといった現象が起きたのだ。その結果、援助物資のアンバランスが起きて、女子高生がブラウス一枚の生活を我慢したまま続けているということが起きているのである。

懸念されるのは衛生面だ。膨大な死者の遺体は、発見しきれない。腐敗が進行すると、ハエやネズミが大量発生して疫病等が流行しかねない。

木造仮設住宅を建設した「物言う」住田町長

そんな惨状の被災地を歩いていると、高台で陽気な声で井戸端会議に興じている中高年の男女の姿があった。場所は陸前高田中学校近所である。声をかけると、その中の1人は、岩手県気仙郡住田町の町長である多田欣一さんだった。

多田さんは現在、町長3期目。東京農大卒業後、故郷岩手県の住田町役所に入庁し、建設課長、税務財政課長、総務課長などを歴任した後、町議を経由せずに町長になった。一昨年の町長選挙で再選し、現在3期目。

震災直後多田さんは、「最初の1週間が勝負。陸前高田と大船渡をうちの町が支える」と決意し、わずか人口6300人の住田町が2万3千人の陸前高田市と約4万人の大船渡市を支援するために奔走した、という。だが、ミルクやおむつを配給しようにも、年に40人ほどしか子どもが生まれない町内では充分ではなく、他市町村に買いに走った、という。

東北地方沿岸部の地域は、常に地震・津波に備えた意識がある。数十年毎に大規模な地震・津波が来るからだ。多田さんの機転の速さは、そうした普段からの心がけからだろう。

「町議さんじゃ、自分で決めたいことは決められません。だから、最初から町長を目指したんです。ですから、市会議員さんなら市長さんを目指さなくちゃいけませんよ」と、同行している木村真豊中市議にハッパをかけた。

福島県の原発報道が際立つ中、多田さんはマスコミで引っ張りだこ。それもこれも、木造仮設住宅というプレハブ仮設とは異なる仮設住宅を建設していることにある。

「仮設住宅は本来、都道府県が設置するんですが、私の判断で仮設住宅を作りました。それに、この木造仮設住宅は『仮設』となっていますが、長期間の居住が可能なんです。男の秘密の部屋に最適、なんていう意見もあります(笑)」と多田さんは話す。

多田さんはトップダウン的な要素が強い岩手県にあって、珍しく県に「物言う首長」として有名だという。

多田さんは、いち早く木造型の仮設住宅を設置したが、非常事態なので、岩手県の許可なしに行ったという(法的には、仮設住宅は都道府県が設置者となる)。

仮設型のスーパーも建設されていた。多田さん曰く、「阪神大震災で神戸の木造住宅はほぼ倒壊したから、木造は駄目だと言われましたが、こう言ってはなんですが、神戸の木造住宅は吹けば飛ぶような建物だった。ウチの町は森林資源が豊富だから、独自に木造仮設住宅を造ったんです」。

多田さんの言うように、関西の木造住宅(だけではないが)が阪神大震災で倒壊した原因は、耐震設計を甘く考えていたからだと実感した記憶がある。ちなみにこの木造仮設住宅は、六本木ヒルズで7月下旬に展示される予定だ。

ちなみに、多田さんの言うように、住田町の森林・林業は全国屈指として一部では有名だ。

内閣不信任案の提示について尋ねると、多田町長のみならず周辺にいた住民も「話にならん! 出す方も出される方もだ!」と、内閣不信任案を支持する・しない以前に、国家への「不信」を爆発させた。

「多田さんは反骨の人ですね」と言うと、「いやいや素直なだけです。反骨じゃありません」と否定したが、まんざらでもなさそうだった。

取材に同行した木村市議と多田町長は、地方政治家同士として意見交換を行っていた。国家に頼らずとも、人民同士の新たな結びつきで問題を乗り越えようとする気運が被災地にはあった。

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