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2016/3/14更新

メディア時評

高市総務相「停波」恫喝
放送界はキャスター継続で反撃を

浅野 健一
ジャーナリスト/同志社大学大学院社会学研究科博士課程教授(京都地裁で地位確認係争中)

高市早苗総務相は、2月8日の衆院予算委員会以降、「(放送番組の編集は)『政治的に公平であること』などと定めた放送法4条違反を理由に電波法76条を根拠にして電波の停止があり得る」と繰り返し発言している。戦後最悪の政権、安倍晋三政権の電波行政のトップである総務相が、放送局にとって死刑宣告に等しい「電波停止」(停波)の可能性を発言し、いまだに撤回していない安倍首相の支持を受けているからだ。

資料:新聞の軽減税率について

「政治的公平性」口実に言論統制

高市氏は、「放送法4条は単なる倫理規定ではなく、法規範性を持つ」として、「一つの番組でも、選挙期間中に特定候補のみを取り上げて公平性に支障を及ぼす場合や、国論を二分する課題で一方の見解だけを取り上げて繰り返すなど、不偏不党の立場から明らかに逸脱している極端な場合は、政治的に公平を確保しているとは認められない」と述べた。12日には政府統一見解も出され、「番組全体を見て判断するという解釈を補充的に説明し、より明確にした」「『番組全体』は『一つ一つの番組の集合体』であり、一つ一つの番組を見て全体を判断するのは当然」と述べた。

2001年にNHKの日本軍慰安婦問題を取り上げた番組の放送前に、NHK理事を官邸に呼びつけ、番組を改ざんさせたのが安倍首相(当時は官房副長官)だ。首相は、放送法4条を「単なる倫理規定ではなく法規であり、法規に違反しているのだから、担当官庁が法にのっとって対応するのは当然」との立場だ。

高市発言は、14年10月の首相のTBS番組での批判発言、自民党による選挙での公正を求めるテレビ各局への文書に始まる言論統制の延長線上にある。福井照・自民党報道局長は11月26日、テレビ朝日「報道ステーション」の担当プロデューサー宛の文書で、「放送法4条4号の規定」を根拠に公平中立な番組制作を求めた。自民党は昨年4月には、NHKとテレビ朝日の幹部を事情聴取。これに対し、放送倫理・番組向上機構(BPO)は、「放送の自由とこれを支える自律に対する政権党による圧力そのもの」と批判している。

続発するキャスター降板

また、安倍晋三首相が嫌うテレビ朝日「報道ステーション」の古館伊知郎氏、TBS「NEWS23」の岸井成格・毎日新聞特別編集委員、膳場貴子氏、NHK「クローズアップ現代」の国谷裕子氏が、3月いっぱいで降板する。岸井氏の後任は、朝日新聞出身で安倍首相の鮨友、星浩氏だ。各局とも通常のキャスター・アンカー交代と説明しているが、誰が見ても、安倍政権の圧力に屈しての降板だ。

安倍自公野合政権は、食料品に加え宅配の新聞に軽減税率を導入する法案を国会に上程した。自公は「雑誌・書籍を軽減税率の対象にするかは今後の検討課題」としている。二度目の安倍政権は、言論統制を強めてきたが、軽減税率で新聞界を黙らせ、出版業界を委縮させ、テレビ界に「停波」で圧力をかけている。官邸首脳は「残るは地方紙の一部と日刊ゲンダイだけ」とうそぶいているという。すべては参院選で圧勝し、憲法改悪に踏み出すためだ。

高市氏は22日の衆院予算委で、2010年11月の参院総務委で菅直人政権の平岡秀夫総務副大臣が「放送局が放送法に違反した場合は電波法に基づく運用停止命令を行うことができる」と答弁したことを踏まえ「国会答弁を踏襲するのも必要だ」と述べた。NHK「ニュース7」はこの答弁をビデオで伝えて、次のニュースに移った。民主党側の反論は全く伝えなかった。

読売・産経は10日ごろから、平岡氏のこの答弁を報じて、高市発言を擁護した。しかし、平岡氏は放送法改正に当たり、電波法の停止命令権を残すと指摘しただけだ。安倍政権は、民主党政権との違いをいつも強調するが、こういう時には副大臣の答弁まで持ち出すのだ。

自民党政権下で激増する行政指導

朝日新聞によると、総務省による番組内容に対する行政指導は、1985年以降、計36件。2003年から急増、安倍政権下で激増している。民主党政権下では、行政指導は一度もなかった。

高市発言は、憲法第21条(表現の自由)、第99条(憲法尊重擁護義務)違反だ。憲法と放送法は、時の権力による放送現場への介入を禁止している。総務相がテレビ番組について「政治的に公平」かを判断することになっているのが、間違っているのだ。

慶応大学教授で元総務相の片山善博氏は12日、テレビ朝日「報道ステーション」で、「放送法は戦前の大本営発表を垂れ流したことへの反省から、権力からの自由を保障するためにある。そもそも、政党とか大臣は政治的、その人たちが政治的中立性をうんぬんするのが本来おかしい」と述べた。

ようやく動き出したテレビ局

テレビ局からもやっとコメントが出た。テレビ朝日の吉田慎一社長は23日の定例会見で、「番組を作るときの自主、自律は法律で保障していただいている。一義的には、番組や放送内容は放送事業者の自律に任されている」との認識を示した。TBSの武田信二社長は24日の定例記者会見で、「電波停止命令が出ることはあってはならないと思っている」と牽制した。

今、放送界がやるべきことは、三つある。

第一に、テレビ3局は、4人のキャスターの降板を撤回し、夏の参院選が終わるまで継続起用すべきだ。放送界は官邸・与党の圧力に屈していないと証明するためだ。

第二に、先進国ではあり得ない総務相の直接免許制による放送行政の抜本的見直しを、政府と国会に求めることだ。行政権力から独立した米連邦通信委員会のような機関が必要。戦後あった電波監視委員会の復活を要求すべきだ。

第三に、高市氏の過去の経歴詐称問題だ。高市氏は1993年以降、選挙の度に、米連邦議会の「議会立法調査官」だったと宣伝してきた。高市氏が総務相に就任した14年、NHKは大臣の経歴紹介で「松下政経塾を出て、米連邦議会で勤務した」などと放送した。私はNHK広報部に、米連邦議会で勤務したというのは誤りだから訂正すべきではないかと質問したが、9月3日、「問題があったとは考えていません」という回答があった。しかし、高市氏は、パトリシア・シュローダー下院議員の個人事務所のスタッフの一人で、無給の手伝いで、職員ではなかった。高市氏は現在、「米議会のコングレッショナル・フェローとして議員を補佐した」とカタカナに言い換えている。高市氏がウソをついたかどうか、メディアは総力を挙げて検証すべきだ。

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