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2014/7/4更新

『博士の異常な愛情』効果

ユーラシア大陸の支配という野望捨てきれぬ米国

4月18日
ジョン・ピルガー(Zコミュニケーション・デーリー・コメンタリー)
翻訳・脇浜義明

先日「ドクター・ストレンジラブ」(邦題名「博士の異常な愛情」、1964年の映画)をまた観た。キューブリック監督は、冷戦の狂気と危険を見事に表現している。

この映画が製作された1964年頃は、「ミサイル格差」が「偽りの旗」(例えば、開戦の口実のために敵がやったと見せかけて自国の施設を故意に破壊するなどのでっち上げ作戦を「偽りの旗」という)であった。ケネディ大統領は、「ソ連がICBM生産で米国を追い越した」というCIAのプロパガンダを大きく打ち出して、核兵器増産と世界覇権政策を推進したのだった。各紙の第一面では、「ソ連の脅威」という文字が踊っていた。実際のところは、ICBM生産は米国の方がはるかに多かった。冷戦はこういうウソの上に築かれた。

ソ連崩壊後、米はNATO東方拡大計画の一環として、核搭載戦闘機やミサイルでロシアを包囲した。1990年にNATOは、「東方へ拡張しない」というゴルバチョブ大統領との約束を破り、東欧のほとんどを勢力下に置いた。旧ソ連のコーカサス地域におけるNATO軍増強は、第2次世界大戦後、最大規模である。

今年2月、米国は選挙で成立したロシア寄りウクライナ政権を倒すために、代理クーデターを煽動した。主体となった突撃隊はファシスト。第2次大戦後初めてヨーロッパの首都の一つで、公然と「反ユダヤ主義」を掲げるネオナチ政権の旗が翻ったのだ。

ロシアと国境を接する国でファシズム政権が誕生したのに、それに異論を唱える西欧の指導者は一人もいなかった。ナチ軍が、ユダヤ人とポーランド人の虐殺を行ったウクライナ蜂起軍(UPA)の支援を受けて、ソ連領ウクライナ侵略を行ったとき、3千万人のロシア人が戦死した。現在クーデターでウクライナ政権を握ったキエフ政府(極右スヴォボーダ党)の精神的支柱は、UPAである。

キエフで米国煽動のクーデター―そしてそれに対応して当然起こった、黒海の自国艦隊を守るためのクリミアのロシア編入―という事件の後、順序を逆にして、ロシアが挑発行為に出たために国際的に孤立したという「ロシア脅威」のニュースが世界を駆け回った。冷戦時代の古びたプロパガンダの復活である。

NATO軍指揮官米空軍将軍ブリードラブ(「「将軍がはぐくむ愛情」と呼んでもよい)は、2週間以上も前に4万人のロシア軍が国境に集結している写真がある、と言った。コリン・パウエルが、「イラクに大量破壊兵器が存在する写真がある」と言ったのと同じだ。ロシア軍集結の真偽はともかく、断言できるのは、オバマの強欲で向こう見ずなクーデター煽動が内戦の導火線となり、プーチンがその罠に嵌りつつあるということだ。

こうして米は、無人機による殺害テロを補完する新たな冷戦を始めたのだ。ブリードラブ将軍がウクライナ独裁政権に贈り物として与えたのは、MAP(NATO加盟準備支援)だった。「ラピッド・トライデント」(多国籍軍の陸空演習)作戦で米軍をウクライナ・ロシア国境に送り込み、「シー・ブリーズ」(微風)作戦で米軍艦がロシアの港の鼻先で演習する。それと同時に、東欧全域でNATO軍の演習も計画されている。

もしこれが逆で、ロシアが米国の国境で軍演習を行っていたら?まさに、『博士の異常な愛情』の中にあったように、将軍が大統領にロシアへの直接攻撃を迫るだろう。

「中国ピボット」で米海軍の3分の2をアジア・太平洋地域に移動させるオバマ

さて、次に中国だ。オバマ大統領は彼の「中国ピボット」(「ピボット」はバランスの中心の意味で、中国重視という意味だろうが、評論家によっては中国を重点的に敵視する政策と解釈、また評論家によっては、中国に接近して仲良くする政策と解釈するなど、様々)を促進するため、4月24日からアジア訪問の旅に出た。目的は、東アジアの同盟国―主要には日本―に対中戦争に備えて軍備を固めさせることだ。2020年までに、全世界に展開している米海軍のほぼ3分の2がアジア・太平洋地域に移動させられる。第2次大戦後最大の軍事集結となる。

オーストラリアから日本までの弧の中で、中国は米国のミサイルと核搭載爆撃機と対峙することになる。上海から643・7`も離れていない韓国済州島では、米の戦略的海軍基地が建設中である。オバマの「ピボット」は、東アジアにおける中国の影響力を抑えることである。ある意味で、別な形の世界戦争が始まったように思える。ここにあるのは、ストレンジ博士の妄想ではない。

チャールズ・ヘーゲル国防長官は先週北京を訪問、「ロシアと同様、中国も米国の言うことを聞かなければ、孤立と戦争の道を歩むことになるぞ」と恫喝をかけた。彼は、ロシアのクリミア併合と、中国の尖閣列島や東シナ海の小島の領有権で日本や近隣アジア諸国に「不当な圧力」をかけているのは、同質の問題だと言った。「世界のどこであろうとも、軍事力や強制や恫喝で各国の主権を侵すべきでない」と、厚顔にも言い放ったのである。米軍の艦隊や核兵器が世界で展開しているのは、「米軍の人道主義的支援」というわけらしい。

オバマは現在、ストレンジ博士の時代、つまり冷戦時代よりも巨額の予算を、核兵器開発費用として要求している。米国は、いまだに、中国からヨーロッパまで拡がるユーラシア大陸の支配という長年の野望を捨てきれないのである。西部開拓時代の「マニフェスト・デスティニー」(先住民やアフリカ人奴隷を犠牲にしてでも西部を開拓するのは白人の使命という思想)の世界版が活きているのである。

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