人民新聞オンライン

タイトル 人民新聞ロゴ 1部150円 購読料半年間3,000円 ┃郵便振替口座 00950-4-88555/ゆうちょ銀行〇九九店 当座 0088555┃購読申込・問合せ取り扱い書店┃人民新聞社┃TEL (06) 6572-9440 FAX (06) 6572-9441┃Mailto: people★jimmin.com (★をアットマークに)twitter
HOME社会原発問題反貧困編集一言政治海外情報投書コラムサイトについてリンク過去記事

2014/1/23更新

中東をめぐって

翻訳・脇浜義明

3年経ったアラブの春

ノーム・チョムスキー
(2013年11月「Zspace Page」)

──アラブの春が始まってから3年が経過、中東地域は自由選挙から暴力的弾圧まで万華鏡のような劇的展開を繰り広げています。現時点で、「アラブの春」をどのように説明されますか。

チョムスキー(以下、C)…以前私は、「アラブの春」を「進歩へ向かう作業」と表現しました。しかし、残念なことに今では、「後退への作業」と表現せざるを得ません。

石油独裁資本が、穏健な改革努力を抑えつけるのに成功しました。シリアは、自殺あるいは国家分裂へ突き進んでいます。イェメンは、オバマの無人機によるグローバル・テロ戦争の従属分子。チュニジアは、一種の監獄状態。リビアは、武装部族や民兵集団に振り回され、政府の統治は無力。アラブ世界の大国エジプトでは、軍が残忍な暴力で支配―しかも、それを民衆が支持している有様で、とんでもない間違いです。軍と軍が後押しする「民」傀儡政権は、蜂起で得た言論の自由や自立などの重要な成果を水泡に帰し、厳しい非人間的政治支配と経済帝国を回復させようとしています。どこを見ても良い徴候は見えません。

そのうえ、米英のイラク侵攻が駆り立てたスンニ派―シーア派対立が、イラクをズタズタに引き裂き、中東全域に広まっていく不気味な情勢になっています。

アラブ世界には、事実上植民地状態の地域が二つあります。一つは西サハラで、2010年後半の民主化闘争が厳しく弾圧され、自由を求めるサハラウィ人の闘いは今や忘却の彼方に置き去りにされています。

もう一つは、言うまでもなくパレスチナです。現在交渉が行われていますが、それは、@不法入植地拡大を制限しないこと、A米国の主導と管理のもとの交渉であること、という二つの前提に基づく交渉です。米はイスラエル側に立つ紛争当事者で、安保理決議に拒否権を行使して外交的解決に関する国際的コンセンサスの実現を妨害してきたのです。

現在行われている「交渉」は、@イスラエルが西岸地区から必要なものをイスラエルへ統合するが、A「人口問題」を避けるためにアラブ人を統合しない、というイスラエルの計画を米国が支援するという事実を覆い隠す「イチジクの葉」でしかありません。さらに、Bオスロー合意に反してガザを西岸地区から切り離し、非道な封鎖を正当化するだけのことです。

パレスチナに関する見通しは明るくありませんが、アラブの春が放った火花がパレスチナで再燃する可能性はあります。

──民衆の力増大と民主主義に一直線に進むという当初の希望は、消え去りました。あの幸福感は間違いだったのですか。いつ・どこで事態が変わったのでしょう。

C…そもそも、右肩上がりの進歩を希望すべきではなかったのです。アラブの春は重大な歴史的発展の一つで、世界の権力者たちを脅かしました。権力が「我々を政権の座から降ろしてくれてありがとう」と礼を言って静かに去って行くことなど、あり得ないのです。

──西側の対応は、直接・間接の軍事介入から湾岸諸国で見られたように遠隔操作など、多岐にわたりました。一定のパターンはありますか。

C…パターンはお馴染みのものです。子飼いの独裁者をできるだけ支援すること。しかし、軍部や経済界が独裁者に反対したり、その他の理由で支援が不可能になると、彼を追い出し、民主主義への愛を語る鐘の音を鳴り響かせ、それからできるだけ完全に元の状態に戻るように体制を立て直すのです。

これは何度も繰り返されてきました。ニカラグアのソモサ、フィリッピンのマルコス、ハイチのデュバリエ、インドネシアのスハルト、ザイール(現コンゴ民主共和国)のモブツ等々、帝国主義者のお馴染みの政策で、その構図を見えないようにするのも、お馴染みです。知識人コミュニティがそれを批判せず、反対に権力に協力し、理屈をつけて正当化するので、見えなくなっているのです。

西側大国が生み出した宗派間対立

──世俗派と宗教勢力との衝突を建設的な方向でまとめる方法はあるでしょうか。西側諸国はどんな役割を果たすべきでしょう。

C…大国システムが、自分の利益になる場合を除き、宗教的対立に建設的な形で関わることは、歴史的にも論理的にも政策分析からも、プロパガンダ以外の動機から見ても、期待できません。特に西側大国はそうです。MENA(中東・北アフリカ)地域では、西側大国(英国と米国)が、世俗民族主義政権への対抗勢力として急進的イスラムを育成・支援してきました。その筆頭が、ワッハーブ派―サラフィー主義(説教と戦闘のためのサラフィー)教義を広めようとしている極端なイスラム主義国家であるサウジアラビアです。

米国の「民主主義伝道」に関する優秀な学問的研究があります。学者たちは、「米国の経済的・戦略的利益に合致する場合のみ、米国は『中東民主主義』を支持する」ことを、渋々認めています。

西側の役割ですって?簡単なことです。「自由・正義・人権・民主主義」を支持することです。ロシアや中国に関しても同じです。人民の組織力が政府をその方向へ向けたのですが、今ではもうその面影もありません。その理由は多様です。

──宗派間の緊張が高まっています。2004年、ヨルダンのアブドゥラ国王は、選挙によってシーア派が多い新イラク政府ができると、イランからイラク、シリア、レバノンにかけ「シーア派三日月地帯」ができるとして、スンニ派に選挙ボイコットを求めました。このスンニ派―シーア派代理戦争は、中東での諸紛争を理解するレンズになりますか。

C…米英のイラク侵攻の恐るべき結果の一つが、すでに落ち着いていたスンニ派―シーア派対立に火をつけ、イラクをズタズタに切り裂く恐怖政治を生み出したことです。しかも、中東全体に拡大しつつあります。

正直に言うと、西側の中東政策を見ていると、嫌でも近代国際法の基礎の一つとなったニュルンベルク裁判を思い出します。ナチを裁いたあの裁判では、軍事侵攻について「全体として種々幾多の悪を蓄積するという点において他の戦争犯罪と異なる最高度の国際犯罪」と規定されました。この「種々幾多の悪」とは、多くの犯罪や残虐行為の原因となる宗派間対立を指しています。

西側の中東政策は、ロバート・ジャクソン裁判官(訳注:米の司法長官。ニュルンベルク裁判で主任検事を勤めた。彼の名言として、「市民が誤りに陥らないようにするのは政府の役目ではない。しかし、政府が誤りに陥らないようにするのは市民の役割である」が有名)の言葉を思い出させます。「我々は被告に毒杯を渡す。もし我々が同じ犯罪を犯したら、同じような結果を受けなければならない。さもないと、この裁判は一種の喜劇、勝者が敗者を裁くだけの喜劇になる」―西側の倫理的・知的文化と文明の格差を測る尺度は、この言葉がどれだけ大切に守られているか、です。

  HOME社会原発問題反貧困編集一言政治海外情報投書コラムサイトについてリンク過去記事

人民新聞社 本社 〒552-0023 大阪市港区港晴3-3-18 2F
TEL (06) 6572-9440 FAX (06) 6572-9441 Mailto:people★jimmin.com(★をアットマークに)
Copyright Jimmin Shimbun. All Rights Reserved.