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2013/12/11更新

浪花の歌う巨人 趙 博

涸れない井戸を見いだすために

「特定秘密保護法案」が強行採決された。こんな極悪法など廃案に付して葬り去るしかないことは明々白々だったはずだ。12月6日の日比谷公園には1万5千人が結集し、大阪・名古屋・京都をはじめ、全国各地で抗議行動が展開される中で、自民党・公明党は「数の暴力」を行使した。我々は今、関東大震災(1923年)後に治安維持法が制定(1925年)されたデ・ジャブー(既視感)の最中にいるのだろうか?

反対勢力が国会内外で連動しきれない現状(それは、民主党の裏切りと社民党の為体、共産党の長年にわたる独善的セクト主義に起因する)において、各地・各層・各界の運動の広がりが人民的規模の「反ファッショ統一戦線」に発展していく時間はなかった。結果はすべて「遅きに失した」のである。

しかし、私〔たち〕は闘いを止めはしない。「力及ばずして倒れることを辞さないが、力を尽くさずして挫けることを拒否」(東大安田講堂の落書きより)し、現段階に於いてなしうる最大限の抵抗と闘争を展開すべきであることは、論を待たない。

次に、たぎる情熱と荒ぶる憤怒にのみ身を任せて危機感に苛まれるだけでは闘えない、敗北は目に見えている、と言いたい。「平和主義・主権在民・基本的人権の尊重」という、まがいなりにも戦後民主主義の三本柱が、あたかも氷柱が日光と熱気で融け細っていくようなこの時代に「昔ながらのシュプレヒコール」は、力を持ち得ないどころか、滑稽ですらある。かと言って「サウンドデモ」「○○フェス」「ネット上の反対署名」「SNS駆使」等の類に潜む「小市民的軽薄さ」も、筆者は拒否する。

いま、冷徹な理性こそが私〔たち〕に必要なのである。『理性の破壊』(ルカーチ)を再来させた後悔と忸怩を肝に銘じつつ、「連帯を求めて孤立を恐れ」(同上の落書き)ぬ勇気と大らかさを堅持したい。何よりも「本質的で総合的な理性も腐食して、道具的理性」(ホルクハイマー)に貶められてしまったのだから…。情勢に即した機敏な論考については他の適任者に任せて、筆者は【全体主義への道程】と題した草稿を、シリーズで読者に提供することにする。「水をくみ出す涸れない井戸」(鶴見俊輔)を見いだすために―

「茶色の朝」

フランク・パヴロフ作『茶色の朝』(1998年、フランス)

物語のあらすじは―

「茶色がもっとも都市生活に適していて、子どもを産みすぎず、餌も少なくてすむから、茶色以外のペットは始末する」という法律ができ、街には自警団がつくられ、毒入り団子が無料配布された。友人のシャルリーは、愛犬の黒のラブラドールを安楽死させた。〈俺〉は、白地に黒のぶちが入った猫を処分した。抵抗感がなくはなかったが、「喉元過ぎれば熱さ忘れる」と自分を納得させた。

一方、この法律を批判する新聞が廃刊に追い込まれ、反対意見を載せた出版物が街中から強制撤去された。〈俺〉は鬱陶しさを感じつつも、「自分が心配性なだけだ」と思うことにした。「茶色に守られた安心、それも悪くない」「街の流れに逆らわないでいさえすれば」快適だった。

そんなある日、シャルリーが「かつて黒の犬を飼っていた」と、国家反逆罪で逮捕された。「抵抗すべきだったんだ。でも、どうやって?政府の動きはすばやかったし、毎日の仕事があるし、毎日やらなきゃならないこまごましたことも多い。他の人たちだって、もめ事はごめんだから、温和しくしているんじゃないか?」と自問する〈俺〉の家のドアが強くたたかれ、自警団がやってきた。

大阪での二つの事件

『茶色の朝』が語るまでもなく、政治的弾圧は、上からの強権的な攻撃だけではなく、下からの「国民的合意(national integration)」が形成される過程を経て完成型が得られる。奇しくも、そのことを如実に物語る二つの「拒否事件」が、この11月に大阪で起こった。

四天王寺が、一年も前に決まっていた小出裕章さんの講演会の開催を拒否した。また、大阪人権博物館(リバティおおさか)は、従軍慰安婦問題を考え橋本市長辞任を求めるシンポジウムに会場を貸さなかった。双方とも「内容が政治的だ」という理由で断ってきた、しかも、主催者側のチラシが出来上がり宣伝が開始された後に、である。

前者は、大阪庶民の信仰を広く集める寺院で、普段から「命の尊さ」を説いている。後者は、言わずと知れた部落解放運動と人権擁護の象徴的施設である。自粛と内部点検をくり返し、自ら言論を抑制する体制を作り上げながら、その挙げ句に強権的弾圧を呼び込む【全体主義への道程】が見える。

いま大阪で起きていることは「一九三〇年代ショー」の再演ではないかと思える。錯覚であってほしいのだが…。

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