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2013/12/4更新

メディア時評

数の暴力で戦前回帰を強行する安倍政権
記者クラブメディアは闘えるのか 

ジャーナリスト/同志社大学社会学部メディア学科教授
浅野 健一

遅すぎたメディアの政府批判

特定秘密保護法案が11月26日に衆院を通過した直後、法案に反対した議員が机を叩いて抗議する中、「にやりと口元を緩めて拍手し、自民党議員と握手を繰り返し」(東京新聞)笑う安倍晋三首相がテレビ画面に映った。

祖父である元A級戦犯の岸信介氏を尊敬するこの極右反動政治家は、公明党・みんなの党を抱き込み、日本政府の持つ情報をすべて米国に差し出す法案の強行採決を行った。法案の修正に合意した日本維新の会が「審議が不十分」として棄権するほど拙速だった。

強行採決の前日、国会が開いた福島市の公聴会で、7人の意見陳述者全員が法案に反対したばかりだった。どこまで福島の人民をなめるのか、と思う。また、何をそんなに急ぐのか、という思いだ。

特定秘密保護法案は、憲法21条「表現の自由」に「公益及び公の秩序」という条件をつけた自民党改憲草案の先取りであり、かつて中曽根政権などが画策・失敗したスパイ防止法・国家秘密法を復活させるものだ。

安倍政権が同法案と一体と見なしている日本版「国家安全保保障会議(NSC)」創設関連法が27日に成立した。初代局長には、西山太吉・元毎日新聞記者が起こした沖縄返還に伴う日米密約の民事裁判で「密約はない」とウソをつき続けた米国の手先である谷内正太郎・元外務事務次官が就任する。数の暴力で、自衛隊がいつでも米国の戦争に参戦できる体制づくりが進んでいく。立憲政治の危機であり、本格的なネオファシズムの時代に入った。

秘密保護法案の審議過程で、森雅子少子化担当相は10月22日の記者会見で、同法で罰則を科す取材活動に関し、「西山事件に匹敵するような行為と考える」と述べた。政府は与党との法案修正協議で、著しく不当な方法でない限り、罰しないことで合意していた。

毎日新聞によると、西山氏は「沖縄密約は憲法違反の重大な政治犯罪。森少子化担当相の発言は全体的な捉え方をしておらず、的外れだ」「政府高官が、保護されるべきではない違憲、違法な秘密を『秘密』としたことは法治国家を根底から覆すことだ。政府に都合の悪いものを全部隠せる法律を認めてはならない」と反論した。

自公は法案の修正過程で「報道の自由に十分配慮する」との規定(20条)を入れたが、法案のいう報道従事者は記者クラブメンバーに限られる。また、「著しく不当な方法」の取材行為は処罰対象となりうる。官憲がジャーナリズム活動について「不当」「正当」を判断するのだ。1999年の有事法成立以降、新自由主義の反動政権と二人三脚で歩んできた記者クラブメディアは今になって政権批判をしているが、遅すぎたのではないか。

運動をバカにする学者

同法案の反対運動を担っている清水雅彦・日本体育大学准教授(憲法学)は、今年9月末、浅野ゼミの合宿で講演し、民主党政権が10年末に設置した「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」の委員五人の中に護憲派とされる長谷部恭男東大教授(憲法)が入ったことについてこう述べた。

―《憲法をやっているものとしてショックだった。長谷部さんはよく朝日新聞に登場し、優秀な方で、学会でも若い人の間に影響力のある学者。1920年代生まれの憲法学者は、自分に戦争体験があったため平和意識が強い学者が多い。30年代生まれの人も同じ。しかし、50年代生まれ以降は特に原体験もなく、頭が良くて大学教授になった人が多い。なぜ憲法をやるのか、という発想がない。長谷部さんもそういうタイプの人で、政治や社会に距離を置く。90年代以降、憲法学会として、声明を出せなくなった。「政治的発言をすべきでない」と言って、運動する人をバカにする。「運動はしない」という学者が圧倒的だ。朝日はそういう学者が好きなのか、よく長谷部さんを使う》

清水氏らは「秘密保護法の制定に反対する憲法・メディア法研究者の声明」を出した。

秘密保護法案は大学の研究者にとっても学問の自由を大きく制限することは必至だ。私の勤める同志社大学でも、教授会で議論もない。

―《「運動」としての活動はあっても、大学院の教授の水準を満たす研究はない》《大学院教授としての品位にかける表現例「ペンとカメラを持った米国工作員」「労務屋」「企業メディア『用心棒』学者」「メディア企業御用学者」「デマ」など》。

私の勤務する大学では、65歳になった大学院教授に70歳まで定年を1年ずつ延長する制度があるが、私の定年延長に関する研究科委員会(大学院の教授会)で何者かが作成し、大学職員に配布させたA4・2枚の文書に書かれていた私への批判だ。私に対する名誉毀損であり、言葉狩りだ。

日本のネオファシズム化が進むなか、大学トップや大学の教授会が時の政権の暴挙に対して反対声明を出すなどの「運動」が消えてしまった。日本マス・コミュニケーション学会、憲法学会も同じだ。

自衛隊の諜報機関が10年前、自衛隊のイラク派兵に反対して活動した「有識者」のリストに私も入っていた。茨城県の革新系無所属議員が主催した派兵反対集会での講演が根拠だった。反政府・反体制運動を監視し、抑圧するのが秘密保護法案の目的だ。この立法そのものが憲法違反であり、許されない。大手紙はこの問題を自らの取材活動への制約という狭い視点で捉えるのではなく、すべての市民の「知る権利」と表現者の言論の自由の問題として見るべきだ。今こそ、沖縄返還密約をスクープし、闘ってきた西山さんに学ぶべきだ。

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