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2012/10/23更新

   【緊張する日中関係】      中国タカ派路線の背景とは?

加々美光行さん(愛知大学教授)に聞く

胡錦濤の出口戦略つぶした野田政権尖閣「国有化」

中国共産党は、尖閣問題をどう扱い、どう結着させようとしているのか? 現代中国研究者の加々美光行さん(愛知大教授)に聞いた。高度経済成長を謳歌してきた中国だが、その成長にも陰りが見え始め、貧富の格差が社会問題化し、官僚・政治家の汚職への不満も高まっている。

11月8日には、5年毎の中国共産党大会が開かれ、胡錦濤体制から習近平体制へと指導部の交代がはかられる。「20年後を見据えた明確な未来像を描けるか?が党大会最大のテーマ」と分析する加々美さんは、「薄煕来の失脚事件や太子党と共産主義青年同盟派との確執も、権力闘争という側面だけでなく、『中国の未来像』という路線問題こそが核心だ」と語る。政府公認の反日デモは暴動化し、中国共産党のタカ派的対応が目立つが、国内問題から目を逸らすための対外強行策との見方は正しいのか? 尖閣問題への中国共産党指導部の対応を分析し、中国が直面する課題を語ってもらった。(文責・編集部)

インタビュー@ 尖閣問題をめぐって

未来ビジョンなく対日強硬論に引っ張られる中国

──反日デモは暴徒化しました。「中国政府が国内問題から国民の目を逸らすための政治手法」との分析がありますが…。

加々美…8月からの経過をみてみます。8月15日、香港の活動家が尖閣諸島に上陸しましたが、前日14日夜に共産党中央軍事委員会が、緊急招集されています。招集したのはタカ派の郭伯雄副委員長と陳炳徳総参謀長ですが、同委員会は、タカ派とハト派が拮抗しています。緊急会議で骨子、@海・空軍に対し尖閣島の防衛を命じる、A現在の受け身的対応を招いた原因である党中央の妥協的・譲歩的対日政策の総括をせよ、との決議案が出されました。決を採ると、12名の委員のうち10名が賛成票、現国家主席=胡錦濤と次期国家主席=習近平の2名が棄権票を投じています。決議案は全会一致が原則なので、棄権票は事実上の反対票です。

ハト派と目されていた5名の委員も全員賛成したうえに、棄権した2名に対して棄権理由の釈明が求められました。結局、決議案は廃案となりましたが、胡錦濤にとっては大変な事態です。

胡錦濤は翌15日、全軍に「軍内で尖閣問題に関する会議・講演会の開催を一切禁止する」との命令を発します。明らかに中央軍事委員会の意向に反する命令です。彼は必死で修正を試みたのです。

これに対し習近平は、大きく動揺します。8月15日以降、沈黙を守り、9月のパネッタ特使との会談まで完全に姿を消しています。病気説などが囁かれましたが、真の理由は、尖閣問題への態度表明を避けるためです。

香港活動家と 中国共産党

──香港の活動家の尖閣上陸は、中国共産党が裏で糸を引いていた、という見方がありますが…。

加々美…完全に間違っています。もしそうならば、8月14日の緊急軍事委員会は必要はありません。中央軍事委員会は、香港活動家の尖閣上陸を直前まで十分に知らず、対応が遅れたことを示しています。

8月31日、野田総理は、外務副大臣の山口壮に親書を託して、戴秉国国務委員(外交担当)と会談させ、@尖閣諸島は日本固有の領土である、A国有化は、領有問題を穏当に秩序立てるための措置である旨を伝えました。

外交上、親書に対しては通例数日以内に応答しなければならないため、胡錦濤は、非常に苦しい選択を迫られます。胡錦濤が下手なコメントをすれば、軍・党のタカ派、中国世論ばかりか、日本の反中国的タカ派世論を刺激しかねないからです。

胡錦濤は、8月14日の緊急軍事委員会以降、尖閣問題について公式発言をしていません。どういう政策で行くべきか、非常に苦しんでいたのです。この沈黙の意味を、野田総理と外務省は全く理解していないようです。

香港の雑誌は、香港活動家の尖閣上陸がどのような経緯と意図を持って行われたのか、詳細なレポートを掲載しています。これをみても、中国共産党の関与というのは、全く的はずれです。

香港の釣魚島(尖閣島)防衛運動、日本軍国主義打倒運動は、71年1月に始まっています。この運動は、中国共産党による独裁に反対し、民主化を実現するという運動で、基本理念として反中国共産党なのです。香港の中国返還が語られ始めたので、共産党の支配に歯止めをかける、という意図がありました。

ただし、民主化活動家たちは、その主張で香港市民の大きな支持を得るのは困難と考えていたので、勃発した尖閣問題に飛びついたのです。「中国国民党(台湾政府)も中国共産党(中国政府)も、しっかり声を上げられないじゃないか」「我々民主派こそが真の愛国者だ」と主張したのです。

70年代に始まる中国民主化活動を釣魚島防衛運動にシフトさせた活動家・学生が、今回の尖閣島上陸部隊の中核を担っています。したがって、彼らが中国共産党と繋がり、その指示のもとに行動しているとの分析は、完全に誤っています。

胡錦濤の「落とし所」

──野田政権の国有化の影響は? また共産党指導部の戦略とは?

加々美…9月11日、APECで両国外相会議の後に、野田総理は、胡錦濤主席と非公式に言葉を交わし、中国側は胡錦濤も楊潔 外相も国有化だけはやめるよう要求しますが、玄葉外相も野田総理もその意味がわからなかったようです。胡錦濤・温家宝は、沈黙を守って解決策を探っていたのですが、その「落とし所」とは、ケ小平 の「尖閣棚上げ論」でした。つまり、@両国が互いに「自国固有の領土」と言いっぱなしにし、相手の主張は否定しない、A日本が「実効支配」していても、声高には言わない、そうすればケ小平の「棚上げ論」の時の条件と同じで中国内のタカ派を説得出来る、と考えていました。

ただし「棚上げ論」をすぐに出すと、タカ派から「妥協的・譲歩的」と批判されるため、時間が必要だったのです。

「国有化」はケ小平の「棚上げ論」の時にはなかった条件だったので引っ込めるよう求めたのです。しかしこの会談の2日後に、野田政権は「尖閣国有化」を閣議決定します。こうなると、胡錦濤はタカ派を説得できないし、習近平もタカ派に接近しない限り次期指導者への道が危ういものとなります。両者は一気にタカ派路線寄りになりました。

実効支配を覆して既成事実化

加々美…胡錦濤の戦略は明らかです。中国監視船が接続海域に常駐し、断続的に領海侵犯しています。目的は、「日本の実効支配」を空洞化することです。接続水域には日本 の巡視船もいるし、中国監視船もいる、どちらも領海すれすれのところを出入りするという状態が1年も続けば、実効支配は五分五分になるのです。この既成事実化が狙いです。

胡錦濤は、この実効支配の空洞化を4〜5カ月続けたところで「棚上げ論」を出せば、事態は収まると踏んでいたのです。

 習近平をタカ派に追い込んだ「国有化」

加々美…野田政権の国有化宣言は、胡錦濤の戦略を完全に 崩してしまいました。こうなると中国は、監視船の派遣を続けることになります。日本は今20隻ほどの巡視船を派遣していますが、この負担にいつまで耐えられるのでしょうか?

今の尖閣問題は、習近平にとって大変なお荷物です。目下中国共産党は、進むべき未来ビジョンを描けないからタカ派の台頭を許しているのです。しっかりした未来図があれば、国内政策にしても対外政策にしても、タカ派・ハト派の間で大きく揺れ動くことを防げるのです。

リーダーシップの根本要素は未来像です。毛沢東はコミューン、人民公社の実現をビジョンとし、ケ小平は改革開放による富裕化と先富論、つまり先に沿海部を豊かにし、その後内陸部まで広げる未来図を描いて見せました。これが毛とケのカリスマ的指導力の源泉でした。

一方胡錦濤は、結局彼独自の未来図を描けませんでした。もし、習近平も描けないまま10年も過ぎてしまえば、中国共産党は崩壊の危機に瀕し、社会は荒廃する。そうなれば、当然タカ派が台頭し、対日政策も極めて厳しいものになるでしょう。

インタビューA 中国共産党の内部事情と長期戦略

未来図が問われている 第18回中国共産党大会 (11/8〜)

経済成長の鈍化と農民・労働争議の激増

瀬戸際に立つ共産党指導部

──11月8日に第18回中国共産党大会が開かれますが、中心テーマは何ですか?

加々美…鈍化した経済成長と激化する貧富格差をどう解決するか?また中国の未来図をどう描くか?が議論の中心です。

農民暴動・労働争議・住民紛争が激増しています。年間4〜6万件の動乱・争議が全国で起こり、400〜600万人が参加しています。「和諧を求める」という政策は、実質的に破綻しています。

経済成長の鈍化も、想像以上に大きな影響を与えています。とくに製造業の落ち込みがひどく、第3次産業への構造転換が間に合わなくなっています。年初には7・5%の経済成長を見込んでいましたが、今では7%という見通しも出ています。

中国共産党は、2008年以降、労働者の実質賃金上昇をめざして、労働組合に賃上げ闘争の権利を認める政策を採りました。それを今更撤回はできません。

ところが、経済は悪化しているので争議は頻発せざるを得ず、これは政権の根幹に関わる重要テーマとなっています。習近平がこの舵取りをすることになりますので、彼がどういう方針を出すか注目されます。

帝師熱と共生論

加々美…7月頃から北京大や精華大にいる政府ブレーンに近い学者たちが、盛んに「共産党に未来図がない」と主張し始めました。胡錦濤は、江沢民の高度成長路線を継承しましたが、個人崇拝を嫌い、集団指導体制を進めました。このため、彼独自の思想を展開したり、カリスマ性を発揮するというリーダーシップはなく、中国の未来像が見えなくなったのです。

ケ小平も個人崇拝を否定しましたが、南巡講話(1992年)を行い、中国を高度経済成長に導きました。彼独自の思想とカリスマ性によって共産党だけでなく民衆を惹きつけました。

ケを引き継いだ江沢民は、独自の思想とカリスマ性を打ち出そうとしました が、1997年の第15回党大会に先立つ中央政治局会議で、個人崇拝の否定と集団指導体制への移行方針が打ち出され、釘を刺されました。江沢民を引き継いだ胡錦濤は、この個人崇拝否定決議を重視しました。その結果、「胡錦濤の10年で、中国の10年後20年後という未来像が見えなくなった」との批判が起きているのです。

そこに、広範で激しい紛争・暴動が各地で起きています。こうして、習近平の後継体制を作るにあたっては、中国の明確な未来像が求められるようになりました。指南役をかってでる知識人が続々現れ、そのフィーバーは「帝師熱」と呼ばれるようになりました。

未来像を描けないまま習近平体制への移行が進んでしまうと、党大会は、派閥間や太子党と共青派との争いといった権力闘争の場となり、もし習近平が太子党で政権を固めていくとなると、共産党の未来は危ういものになります。

毛沢東掲げた薄煕来の未来図

──毛沢東主義を掲げた薄煕来失脚は、太子党と共青派との権力闘争と語られますが…。

加々美…「薄煕来は毛沢東思想を掲げた」といわれていますが、それは皮相的な分析で す。それは、彼の独立王国といわれた重慶に行けばわかります。単純な毛沢東礼賛ではありません。

薄煕来が彼なりの未来図を民衆、特に若者世代に提示する際に、毛沢東思想がわかりやすい象徴だっただけなのです。これには若者の厳しい現実が背景にあります。

日本でも経済格差が広がり、学生の就職率が低下し、雇用は不安定化していますが、中国の若者は、より深刻な状況に置かれています。増え続ける高齢者の年金を負担し、社会的なしわ寄せをくっている、と感じています。

 「80後」(パーリンホウ)世代の毛沢東フィーバー

加々美…習近平は、薄煕来が失脚するまでは、彼を支持していました。習近平は習仲勲、薄煕来は薄一波というともに共産党の重鎮の息子で、太子党です。両者ともに、有名な進学校である北京第四中学の四歳違いの同窓生です。

ただし、薄煕来は、文革の過酷な現実を経験しています。1966年に文革が勃発した時、彼は初期紅衛兵として活発に活動しますが、67年に、父である薄一波が右派としてつるし上げられます。三角帽を被せられ、首には反革命の札をつけられ、批判集会々場の壇上に上げられて酷く批判されました。その時薄煕来は、「父親と一線を画する」ことを求められて壇上に上がり、父の薄一波を鉄拳で何度も殴りつけています。半殺しの血だらけ状態まで殴り続けました。

ところがそれでも薄煕来は許されず、自己批判を要求され、事実上7年間の投獄生活を送りました。この間に母親は自殺しています。そういう経験をした薄煕来が、単純に「毛沢東万歳!」を言うでしょうか?

彼が毛沢東を掲げたのは、次の理由からです。彼は、帝師熱が起こるなか、指導者の要件は未来ビジョンを示すことだと確信し、それには拡大する格差を解消することだと考えたのです。彼は重慶で「共同富裕」のスローガンを掲げ、「唱紅・打黒」運動を展開します。「唱紅」(チャンホン)とは、格差是正・平等・公平を求める運動であり、「打黒」(ダヒ)とは、汚職や犯罪組織一斉検挙キャンペーンです。

習近平は、薄煕来の「唱紅」は支持しましたが、「打黒」については「やめた方がいい」と忠告しています。理由は、打黒が自分の首を絞めることになる危険性を知っていたからです。習近平も薄煕来も、父親が革命の元勲であるという特権階級です。親族の中には、汚職にまみれていたり、米国籍を取得している者も、さらには暴力団と関係を持つ者もいるのです。

「打黒」運動は、そうした自分自身の「黒い」部分を洗い出すことになりかねず、自分の首を打つリスクを伴うからです。つまり、薄煕来事件の切っかけは、打黒運動にあります。さらに「唱紅」運動は、未来像を描けない胡錦濤の批判になることがわかっていましたので、胡錦濤と薄煕来は対立します。これが薄煕来事件の背景です。

格差の拡大・経済成長の鈍化のなか、第18回中国共産党大会は、どういう未来像を描くのか?が議論されます。習近平体制がしっかりした未来像を描けず、紛争・暴動が拡大するなら、タカ派の台頭を許し、尖閣問題を抱える日中関係も悪化は避けられません。

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