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 【特集】橋下府知事の「大衆扇動」型ポピュリズム

目指す大阪都は「優勝劣敗」社会

 「大阪の将来を、府民の皆さんに選択していただく機会を設定した」─10月22日、大阪府の橋下徹知事は、府議会に辞職願を提出。大阪市長選挙への出馬を明らかにした。大阪府・市首長選挙でのW勝利を狙う。橋下と「大阪維新の会」のもくろみは、「大阪都構想」と、「教育基本条例」「職員基本条例」の実現だ。

 今回の特集では、4人の方にお話をうかがった。中京大学教授の大内裕和さんは、2条例の出てきた政治的背景を「憲法改悪につながる新自由主義政策」と分析、見張り番・八尾の奥村貴夫さんは、橋下改革で切り捨てられた夜間中学生や非正規労働者の情況を、フリージャーナリストの西谷文和さん、なかまユニオンの松田幹雄さんからは、そんな橋下に反対の声を上げ始めた動きを報告していただいた。(編集部)

特集@=インタビュー   大内裕和さん(中京大学国際教養学部教授)

グローバル企業人材育成のための教育改革

 ──橋下前知事・維新の会が提案した「教育基本条例」案では、「グローバル社会に対応できる人材育成」「競争力の高い人材」と、「競争」が強調されていますが…。

大内…新自由主義が進行する中、グローバル企業が望む人材を育成するのが狙いです。「思想及び良心の自由」や「表現の自由」ではなく、市場経済における「競争の自由」を重んじることであり、橋下知事は、そのことを何度も明言しています。

教育に競争原理を持ち込めば、能力主義による生徒間の差別や学校間の序列化・格差が、ますます大きくなります。知事自身が、競争を勝ち上がり、階級上昇を勝ち取った人だということもあって、彼のスタンスには、優勝劣敗や社会ダーヴィニズムの考え方が色濃く出ています。

 ──維新の会は、学校選択制を強く宣伝しています。

大内…学校選択制も、新自由主義政策のひとつです。教育に競争原理を持ち込んで、「成績優秀」な学校を作り出す制度ですが、それは同時に、「成績の悪い」学校を作り出すことを意味します。

東京都品川区が「個性的な学校づくり」を掲げて2000年に学校選択制を導入したのを皮切りに、多くの区・市が選択制を導入しましたが、生徒数の不均衡が大きな問題になっています。品川区のある小規模中学校では、志望者ゼロの年があったそうです。

「教育基本条例」では、3年連続で定員割れした学校は統廃合します。そうなると、近くに通える学校がない生徒が生まれます。これは、憲法26条が保障する「教育を受ける権利(学習権)」の侵害です。「近所の学校に通う」という原則が失われれば、地域と学校の関係性も希薄になってしまいます。

「子どもをたくさん集めた学校=いい学校」でしょうか?学校が生徒集めばかりにエネルギーを注ぐようになれば、教育内容より宣伝が優先されます。保護者が、子どもを「よりよい学校」に通わせたいと考えるのは、当然かもしれません。しかし、「成績の悪い」学校は淘汰され、教育の中味は受験対策へ向けて画一化してしまいます。すべての人に開かれているからこそ公立、平等で格差がないからこそ公立なんです。

 ──また「教育基本条例」は、「教育への政治介入」を強調しています。

大内…教育委員会の裁量を縛り、首長のやりたいままに教育が左右されることは、教育の政治的中立、教育行政の独立性の確保という原則が失われます。かつての皇民化教育の反省から定められた原則を破り、歴史的教訓を投げ捨てる暴挙です。

新自由主義的「競争」原理のもとで、学校の序列化を徹底させ、テスト結果重視の教育を進め、学校・教員も従わせる。目標を達成できない学校は、予算カット。命令に従わない教員は、処分。膨大な懲戒・分限処分についての規定で、教員を締め付けます。

「教育基本条例」では、校長・副校長は任期制です。同時に、校長には教科書採択権が与えられ、教員の人事異動などの権限も強化されるため、校長による管理統制は強くなります。一方で、任期が定められているので、校長の府教委への従属が強まります。その府教委も、知事による強い統制下にある…こうして教育現場での「首長独裁」が実現されるのです。

橋下勝てば 中央政界へも波及

──「教育基本条例」が出てきた政治的な背景について、どう分析しますか?

大内…橋下知事は、立候補まで政治的経験がまったくありませんでした。いくらタレントで顔が売れていたとはいえ、個人的な人気だけでは、ここまでやれません。

知事のブレーンとして、作家の堺屋太一や慶応大学の上山信一などが知られていますが、それに加えて新自由主義を進めたい財界のサポートが必ず存在するはずです。

「教育基本条例」「職員基本条例」は、そうした新自由主義勢力によって、教員・公務員が、「敵対勢力」として名指しされた、ということです。

新自由主義によって貧困・格差が拡大すれば、大多数の生活・権利が脅かされます。

中東・アラブの民主化運動や、ウォール街占拠から世界に広がった運動のように、それに対する怒りの声が大きく広がれば、新自由主義政権は大きく揺らぐことになるでしょう。

そこで、新自由主義政権の用いる手法が、「分断統治」です。「教員・公務員は、民間企業と比べて高い給料だ」「身分が保障されているから、教員や公務員はたるんでる」などといって、「教員と公務員」=「既得権を持つ者」として人々の妬みや嫉妬心を煽るのです。橋下知事の政治手法は、まさにポピュリズムです。それも「大衆迎合」ではなく、強力な「大衆扇動」型ポピュリズムです。

この分断を超える連帯が実現できない限り、社会全体の貧困化は進むばかりです。

 ──橋下は大衆を分断する扇動者、新自由主義の旗振り役?

大内…そうです。2条例は、新自由主義を貫徹するために橋下・維新の会が出してきた切り札です。@新自由主義下で、グローバル企業が求める人材を育て、A教員・公務員を「抵抗勢力」として、徹底的にバッシングし、動きを封じ込める、のが目的です。

橋下の大阪都構想・2条例の動きは、大阪だけの話ではありません。もし今回のW選挙で橋下らが勝利すれば、この動きは中央政界へも波及し、政治状況が一気に流動化します。すでに自民党とみんなの党は、橋下との連携に向けて動き始めています。私は、憲法改悪を狙う動きが、再び加速すると危惧しています。

橋下の「大阪都構想」の延長上にある関西州構想は、自民党の道州制、民主党の「地域主権」国家構想とも合致します。その内容は、地域と密着した住民サービスを提供し、住民自治の基礎となる基礎自治体のリストラです。その上で、アメリカ型の連邦制国家のように、外交と安全保障を国の専管事項とし、その他の権限を各道州に移管し、総合的な施策をやらせるのが目標です。

そうなれば、沖縄・米軍基地問題について、沖縄の人々が住民自治の立場からコミットすることができなくなり、さらに沖縄の声が無視されることになります。また、道州レベルで今回の2条例のような、憲法違反の内容の条例を作ることも、容易になります。

(以下一部全文は1429号を入手ください。購読申込・問合せはこちらまで。)

改憲派にとっては、いまだに自分たちに抵抗している教職員と公務員の労働組合が、目障りな存在なのです。両組合は、新自由主義への抵抗体にもなり得ます。今回の2条例は、憲法改悪と新自由主義への「抵抗勢力」を解体する狙いを持っています。

 

はがれつつある橋下の化けの皮

──橋下に人気が集まる理由は?

大内…人々が「日本の企業社会以外に生きる道はない」「優勝劣敗の中で生きるしかない」と思いこまされ、あきらめが蔓延していることも大きいと思います。しかし、新自由主義がこのまま続くとは思えません。世界に目を広げれば、中東・アラブの民主化運動や、米・ウォール街の占拠・デモなど、貧困と格差や新自由主義への抗議・疑問が、大規模に呼びかけられています。

──W選挙に向けて、どう行動すべきでしょうか。

大内…ウォール街デモの呼びかけに、東京でも若者がデモしました。センスがあると思いますし、大きな希望です。

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