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更新日:2011/02/01(火)

[反貧困] ベーシックインカムと脱成長社会 踏み車を踏み続ける生活からの脱出
──山森亮(同志社大学経済学部教員)

資本主義からの脱出の糸口

なぜ私たちは、踏み車を踏み続けるネズミのような生活を強いられているのだろうか。永遠に先送りされる未来のために、今、ここでの生の享受を犠牲にせざるを得ない生活はいつまで続くのか。

ベーシックインカムという、どこかで耳にし嫌悪感とともに記憶の片隅に追いやっていた考え方が、私の中で突如赤く熟れたリンゴのように見え始めたのは、20歳代なかば、何人かの友人たちの訃報が重なった時だった。1990年代なかばのことだった。

ベーシックインカムに、絶えざる成長へと私たちを駆り立てていく資本主義からの脱出の糸口を、その時、嗅ぎ取ったような気がした。その後十数年にわたってこの考え方を追って行く中で、その嗅覚は半分は正しく、半分は間違っていた。

ベーシックインカムの特徴

ベーシックインカムとは、全ての個人が、生活に足るだろう所得を、無条件で給付を受ける権利がある、とする考え方である。

キング牧師も晩年にベーシックインカム要求を運動の中心に据えたのだが、どうやらそのような歴史は忘れ去られて、現在の日本ではネオリベラリズムの変種のように捉えられているようである。しかし、その歴史をひもとけば、この要求は社会運動の中から常に要求されていたことに気づくはずだ。

およそ200年ほど前に、イギリスで土地の囲い込みへの反対運動の中で出現した考え方である。私的所有の根拠が、その人が労働によって所有物を作り出したことにあるとするなら、土地を私的に所有することは正当化されない。したがって、土地を占有している人々は社会に対して地代を払い、それを原資にベーシックインカムが給付されるべきである、というのである。

19世紀なかばになると、飢餓への恐怖によって賃労働への従事を余儀なくされる人々が増大する。こうした中で、賃労働への批判として、ベーシックインカムは議論されるようになる。

20世紀の2つの世界大戦の間の時期には、金融資本主義への批判と結びついて、金融の社会化とセットで議論されたりもした。

第2次大戦後に福祉国家が成立すると、この福祉国家が男性の賃労働と女性の家事労働という性別役割分業に基づく仕組みであることへの批判の中で、ベーシックインカムが対案として希求されるようになった。さきほどキング牧師の名前をあげたが、彼は、黒人のシングルマザーたちの福祉権運動から多くを学んだ。

彼女たちは、育児・介護などの家事労働への「生活賃金」として、保証所得を要求したのである。ベーシック・インカム要求は、過去数十年というスパンでみた場合には、一人で家族を養う所得を得ようとした女性たちの運動の中で、ケア(介護)の社会化要求や、賃労働現場での平等要求と並んで要求されてきたのである。

アイルランド政府は2002年に、この政策について検討した「ベーシック・インカム白書」をまとめている。この白書は、ベーシックインカムの鍵となる特徴として、以下の諸点をあげている。

@現物(サービスやクーポン)ではなく、金銭で給付される。それゆえいつどのように使うかに制約はない。

A人生のある時点で一括で給付されるのではなく、毎月ないし毎週といった定期的な支払いの形をとる。

B公的に管理される資源の中から、国家または他の政治的共同体(地方自治体など)によって支払われる。

C世帯や世帯主にではなく、個々人に支払われる。

D資力調査なしに支払われる。それゆえ、一連の行政管理やそれにかかる費用、現存する労働へのインセンティブを阻害する要因がなくなる。

E稼働能力調査なしに支払われる。それゆえ、雇用の柔軟性や個人の選択を最大化し、また社会的に有益でありながら低賃金の仕事に人々がつくインセンティブを高める。

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