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更新日:2010/11/03(水)

[コラム] 大今歩/千島2島先行論とムネオ「有罪判決」

「ムネオ・ハウス」疑惑─「国策捜査」の開始

9月8日、最高裁第1小法廷は、衆院議員・鈴木宗男被告に対して、上告を棄却した。その後鈴木議員は失職し、収監される予定である。

鈴木氏は当日の記者会見において、「密室での取り調べ、一方的な調書、その調書を金科玉条のごとく最優先する判決。真の公正公平はどこにあるのか」と、検察や裁判所を批判した。

鈴木氏は、逮捕から8年余り無罪を主張し、「国策捜査」と検察を批判してきた。鈴木氏が言う「国策捜査」の意味を私なりに考えたい。

まず第1に、「国策捜査」は、国会やマスコミが繰り広げた鈴木氏に対する疑惑追及に対して、「振り上げたコブシは降ろせない」ため、無理矢理断行された。2002年2月、共産党の佐々木憲昭議員によって、国後島にできた旧島民の宿泊施設が「ムネオハウス」と呼ばれているとして、鈴木氏が北方4島の利権を独占して私腹を肥やしているとの追及が始まった。社民党の辻元清美議員の「疑惑の総合商社」との非難もあり、その後、鈴木氏は逮捕された。しかし、容疑は「ムネオハウス」とはまったく関係のない「別件逮捕」だった。

1998年、林業会社「やまりん」が鈴木氏に送った献金400万円をワイロと認定し、「あっせん収賄罪」などの容疑での逮捕だった。鈴木氏は、「やまりん」の献金は内閣副官房長官就任祝いであり、役所への働きかけなどしていない、しかもその後「やまりん」は国有林の無断伐採で行政処分を受けたので、その年に返還した、と言う。

ところが検察は、4年もたって立件し、鈴木氏を逮捕したのである(『反省』鈴木宗男・佐藤優共著/アスコム)。名目は何でもいい。とにかく、マスコミから叩かれた鈴木氏を収監する。それが「国策捜査」、およびそれにしたがった裁判所の判断だった。

2島返還先行論──「国策捜査」の背景

第2に、「国策捜査」の背景について考えたい。

それは、北方4島(歯舞・色丹・国後・択捉)返還について、鈴木氏が歯舞・色丹の「2島返還先行」の実現を推進したことである。

日本共産党国会議員団鈴木宗男疑惑追及チームの『ムネオ疑惑追及300日』(新日本出版社)は、その冒頭に次のように述べる。2001年8月28日、日本共産党筆坂英世・元参議院議員が根室市に行った時、北方領土返還運動を進める人々から「商工会議所・漁協が中心になって北方領土返還促進市民会議を立ち上げた。市長も後援する立場を取っている」「中心になってやっているのは、ムネオ講演会の幹部の者だ」などの不満の声が出された。筆坂氏は「鈴木氏の2島返還先行論は結局、歯舞・色丹の2島で終わりであり、国後・択捉を放棄するもの。その点で皆さんの主張は理解できる」と激励したという。

そしてその後、鈴木氏と田中真紀子外相の対立をきっかけに、外務省内部からリークされた文書が共産党に届き、それにもとづいて「ムネオハウス」など鈴木氏は国会で追及されるのである(『同時代批評』和田春樹・著/彩流社)。

1956年に調印された日ソ共同宣言は、千島問題について「ソヴェト社会主義共和国連邦は…(中略)歯舞群島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する。ただし、これらの諸島は、日本国とソヴェト社会主義共和国連邦との間の平和条約が締結された後に現実に引き渡されるものとする」と述べる。

ところが、調印直後から日本政府は、突如一方的にハードルを上げ、国後・択捉を含めた4島一括返還を主張し始め、日ソ交渉は暗礁に乗り上げる。日ソの関係緊密化を恐れたアメリカが、横車を押したためである。

米国一辺倒「外交」の危うさ

以上のような歴史的経緯を考えれば、鈴木氏が推進した「2島返還先行」は、「領土問題解決」(アイヌの民族自決については、ここでは触れない)のための現実的、かつ唯一の判断であると言える。そして、橋本・小渕・森内閣の下で、ロシアの合意を得て、「2島先行返還」が実現寸前まで至っていた。

ところが、「2島返還先行」を絶対のタブーとする日米関係一辺倒の外務省の一部は鈴木氏追い落としをはかり、「国策捜査」につながった。鈴木宗男氏の有罪確定および議員失職は、日米安保のためならばロシアなど近隣諸国との友好をないがしろにしても構わない、という日本の「国策」の危うさを浮き彫りにしている。

鈴木氏の有罪確定の直後に、厚生労働省の幹部職員である村木局長に対する捜査の誤りが明らかとなり、無罪判決が確定した。さらに、大阪地検特捜部による証拠改ざんが明らかとなり、前田主席検事が逮捕された。その上司も改ざんへの関与が疑われ、事情聴取を受けている。

どうしても私たちは、議員や高級官僚について特権を行使している、ワイロをもらっているのではないか、と検察が垂れ流したマスコミの報道に疑いを持たず同調しがちである。否、むしろ特捜部を権力に立ち向かう「正義の味方」と思い込んでしまっている。

村木さんの件と同様に、鈴木氏に対する「国策捜査」や、それに追随した裁判所の判断に強く疑問を感じる。

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