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前回の要旨
 チョムスキー氏は、オバマ氏の当選について「歴史的」と評価するのは西洋的民主主義の限界だと語る。インドでは、女性でカースト制度の最底辺に位置づけられるダーリット出身者が州の首相に選ばれており、ボリビアでは西半球で最も抑圧された先住民が、仲間の貧農エボ・モラレスを大統領候補者に立て、勝利しているからだ。
 また、オバマ氏の選挙キャンペーンについては、広告業界が「広告の達人」と呼んで激賞したことを紹介した上で、「希望」「変化」という選挙メッセージは、支持者がそれぞれ好きなことを書き込める「白紙の掲示板のようなものだ」と喝破。政策については「その発言ではなく、実際の行動を見るべきだ」と語る。
更新日:2009/05/01(金)

[政治] N・チョムスキー、オバマ政権を語る/「外交政策」
──「選挙・経済・戦争・平和」より(08年11月25日)http://www.zmag.org/znet/viewArticle/19749

パレスチナとイラク

国際関係政治に関しては、オバマの白紙掲示板(「変化」「希望」という選挙メッセージ)にほとんど見るものはない。ブッシュ第2次政権とほとんど変わるところは見られない。

目下の問題は、まず中東である。オバマは従来の米政権のパレスチナ指導部拒否姿勢とは異なる路線をとるだろうという噂が飛び交っているが、彼の経歴から判断する限り、そのような噂を真に受けることはできない。

オバマの選挙中の中東訪問で1つだけはっきりしたことは、彼が熱烈なイスラエル支持者で、パレスチナにはほとんど関心がないという態度を見せたことだ。

イラク戦争に関してオバマは、「信念に基づいて戦争に反対」していると何度も賛美された。しかし彼の反対は決して「信念的反戦」などではなかった。彼は、イラク戦争は「戦略的失敗」だと言ったのである。

侵略者にはいかなる権利もなく、あるのは被害者の意志を尊重し、犯した犯罪を償う賠償を支払う責任だけである。米国の犯罪の中には、第1次湾岸戦争後にフセインのシーア派虐殺を米軍が見逃したこと、「ジェノサイド」と呼ばれたクリントン政権のイラク制裁等々が含まれるが、それらへの反省どころか言及すら、政界にもマスコミ界でも聞こえない。

オバマの中東ビジョン

オバマが口に出した「ビジョン」は、米軍をイラクからアフガニスタンに移すことである。ここにきて、「中東の民主化」といった自画自賛的神話が次第に後退し、世界のみんなが持っている認識が前面に出てくるようになった―即ち、もしもイラクの主要輸出品がアスパラガスやトマトだけだったとしたら、米国のイラク侵攻はなかったであろう、という自明の認識だ。

07年6月、スヘッフェルNATO事務総長は、石油と天然ガスのパイプラインを警護し、さらにタンカーが通るシーレーンやエネルギー・システムの重要インフラを守るのが、NATO軍の任務だと言った。

おそらくNATO軍の警護任務の中には、計画中のTAPIパイプライン(訳注:トルクメニスタンからアフガニスタン、パキスタンを経由してインドまで天然ガスを運ぶパイプライン)も含まれるだろう。この目的は、「イランからパキスタンやインドへと天然ガスを送るパイプライン建設を阻止」し、「中央アジアのエネルギー輸出に対するロシアの支配力を弱める」ためのようだ。これは新たな「大いなるゲーム」(訳注:アフガニスタンをめぐるロシアと西側との支配権争い。最初は19世紀初頭の英国と帝政ロシアのアフガニスタン分捕り合戦。2度目は80年代ソ連支配下のアフガニスタンに米国が秘密部隊を送り込んで生じたもの。第3次は、タリバン政権を倒すための米軍侵攻。そしてオバマ・ビジョンが新たなる「大いなるゲーム」となる)の輪郭を描いたものといえる。

10月26日、1人のアルカイーダを捕らえるということで、イラク駐留米軍がシリアを攻撃して、8人の民間人を殺傷した。このシリア攻撃はアラブ世界からの厳しい非難を招いた。オバマは沈黙したままだった。他の民主党員も沈黙したまま。

どうもオバマも、米国がその気になればどの国でも攻撃できる権利があるばかりか、「その抵抗者を支援していると米国が判断する国」をも攻撃する権利があるという無茶苦茶に拡大された『ブッシュ・ドクトリン』を承認しているようである。

米軍がパキスタンで無人航空機プレデターを使ってミサイル攻撃し、多くの民間人を殺傷していることにも、まったく無批判である(訳注:現に、オバマが大統領就任後もこの攻撃は続き、就任後最初の攻撃が09年1月24日、パキスタン北西部の部族地域に対して行なわれ、子ども3人、民間人4人を含む15人を殺害した)。

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